自分のほかに味方がアロペクスしかいない戦場で、レイビィシステムを起動したライラプスは群がる敵を掻き分けて自由自在に駆け回った。テウメッサはガイア軍でも屈指のエースパイロットなので、レイビィシステムに敵と見なされようがそうそう模擬戦と同じ轍は踏まない。背中にしがみついて耐えるマイラには悪いが、シリウスは“女の子を守りながら”“大軍相手に無双する”という、雄としての本能と獣としての本能の両方が満たされるのを感じた。完璧なコンビネーションの二体を囲んで火球の花が咲き乱れてゆく。
「ライラプスの正体がハウンドだからって、ブランさんが言うほど簡単には通してくれないか……」
「レイビィシステムのワクチンは?」
「駄目だ。もうライラプスが裏切り者だってことが知れ渡ってるみたい」
コンピュータ保護のためレイビィシステムが自動停止した。母艦を守るオルトロスの数が減ったので、シリウスはマーカーの表示設定を元に戻した。
「こいつも俺も一匹狼、ここまでよくついてきてくれたよ」
敵も業を煮やしたのか、三人の行く手に大型のレイヴンが現れた。ブラッドレイヴンではない。たった三羽で現れたレイヴン編隊は機関砲を乱射しながらこちらとすれ違い、二体の後方で縦列を組むとみるみるうちに変形合体した。この三体合体の黒い巨大ロボットはライラプスのコンピュータによって新型と認識され、マーカーの名前が変わった。コードネーム、ケルベロス。アロペクス側の表示もデータリンクによって同様に更新された。
「馬鹿にしてるのか?地球の重力下で飛べるようになるオルトロスならともかく、お前達が宇宙でわざわざ合体する意味あるのかよ!」
《足を止めるな!逃げろ!》
シリウスがライラプスハープーンを構えると同時にケルベロスの背中から右肩へ砲身がせり上がり、支持アームで機体に直結しているレーザー砲が火を噴いた。
「きゃあ!あっぶな……!」
ライラプスが左肩の増設スラスターとフェイスマスクの左半面を失うだけで済んだのは、シリウスの操縦のおかげではなく、彼の反射神経では不可能な反応速度の自動回避のおかげだった。
「あれを撃つための形態だったのか!だったら……」
シリウスはスラスターを噴かしてジグザグの回避運動を取りながら照準を修正した。
「……なんで最初から合体してこない!」
弾頭は確かに敵のみぞおちを捉えたものの、アエロ、オキュペテ、ケライノの三羽に分離したケルベロスはやすやすとライラプスの攻撃を避けた。しかし弾頭が炸裂したあと、残ったワイヤーが暴れてオキュペテの姿勢をほんの一瞬乱したのを見逃すシリウスではなかった。鞭のようにしなるハイパーカーボンの超硬度ワイヤーは三羽のハルピュイアにこそ当たらないが、加勢に現れたオルトロス部隊を予測不可能な動きで次々と打ち据えては大破させる。……と、ここで弾頭が底をつき、シリウスは残弾を意識しだした。予備の弾倉はひとつきり、これを使い切ればリールにいくらワイヤーが余っていようと次発はもうない。
《よう、頑張ってるね》
「ライカさん!」
銀の鳥部隊が増槽を捨てた。
《性懲りもなくまた新しい合体ロボか……。シリウスくん、分離形態と合体形態、どっちが厄介だと思う?》
「知りませんよそんなの!いじわるしてないであいつらをやっつけてくださいよ!」
《私なら分離中を狙う。よく見ろシリウス、一羽だけわずかに旋回半径の大きい奴がいる》
アロペクスが指差したオキュペテは胴体パーツに変形するので、これを撃破すればレーザー砲が使えなくなるだけでなく、合体そのものができなくなる。まさしくそれこそがケルベロスの弱点だった。
《レーザー砲を運んでいるぶん、機体の質量が大きく、小回りが利かないんだね》
「な、なるほど」
「感心してる場合じゃないでしょ!」
《その声、マイラちゃんまで出てきちゃったの!?しょうがない……分かったらさっさとやるよ!》
五羽のグレイホークが小型ミサイルを斉射してケルベロスへの合体を妨害している隙に、アロペクスがオキュペテを追い込み、とどめのライラプスハープーンを撃ち込んだシリウスは弾頭をあえて起爆させずに突き刺したまま、錘のように振り回してケライノにぶつけた。残るアエロは、ミサイルと散弾の雨をまともに浴びてもなおグレイホークやアロペクスの性能を凌駕したが、ケンネルとパスファインダーの十字砲火によって力尽き、大きな火球となった。
「よっしゃあっ!!」
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