敵に襲われたところで、トレーラーは積み荷が重すぎてアクセルもブレーキも急には踏めず、現在の走行速度を保って進むしかない。輸送部隊の車列から見て右手の敵本隊に右列のタランチュラが砲弾を浴びせ、グレイホーク部隊が続々と急降下してタロンミサイルを撃ち込んでゆく。いっぽう左手にオルトロス以外の敵が現れる様子はなかったが、ライカ隊は上空でたった一羽の新型戦闘機ブラッドレイヴンに翻弄され、右列のタランチュラの援護を受けながらシリウスひとりが翼のないブラッドハウンドに立ち向かうはめになった。

《敵を行かせるな!合体されたらあの子は勝てない!》

 ブラッドハウンドの両眼が赤く輝き、マシンガンの一連射でタランチュラ部隊が壊滅した。ライラプスはとっさに防御したが、ライラプスクローのレーザーカッター発生器が被弾して左腕ごと吹き飛んだ。

《 《シリウス!!》 》

《あはははは!今度は敵の試作機の実用テストというわけね、面白い……。シリウス君、レイビィシステムを使いなさい》

「あんなもの、消去してなかったんですか!?」

《消去するなんてとんでもない!むしろ改良しておきました。大丈夫、やれば分かるわ》

《あなたのその台詞、ぜんっぜん信用できないんですけど……》

《くやしいがブランの言う通りじゃ。誰かさんのせいで全機がレイビィシステムを搭載する今のハウンドに、レイビィシステムなしでは対抗できん。プログラムの修正にはわしも携わっておる。シリウス、起動方法は音声入力じゃ》

「博士、マイラ……。レイビィ……システム……」

 ライラプスが顔を上げた。

「……いやだっ!!」

《よく言った!》

 マシンガンの火線を躱す隻腕のライラプスの前をライカのグレイホークがかすめ飛び、超低空で機関砲を撃った。そしてその隙に生き残りの無人タランチュラの太い脚を掴んだシリウスは、マシンガンを破壊されて格闘戦に移ろうとするブラッドハウンドの顔面に思い切り投げつけた。あのときレイビィシステムはどうせ止められなかったけど、そもそも最初の暴走ハウンドを仕留めていればあんなことにはならずに済んだはずだ。ライラプスの力に頼るだけじゃなくて、俺自身が頭を使って戦わなくちゃ。それにライラプスのコックピットでスクーターに乗ったまま振り回されると、装甲作業服を着ててもグレイホークの戦闘機動よりきっついんだよ!右腕に残されたライラプスクローの四つのパーツがせり出し、タランチュラを囮にしてまっすぐ突撃するライラプスの光の爪がブラッドハウンドの胴体を貫いた。

 ブラッドハウンドの爆発のキノコ雲が立ち昇る上空では、相方を失ったブラッドレイヴンが無人機ならではの急反転と急加速で戦場から宇宙空間へ離脱していった。ライラプスの戦闘を見ていた背後の部隊でも自動操縦のグレイホークを使った体当たり攻撃が始まり、地球防衛軍は多数の損害を出しながらも敵部隊を撤退させることに成功した。


《博士。敵は機関銃を持ってるのに、こっちは両手の爪だけなんていいかげんつらすぎます。危ない暴走システムなんかより、ライラプスにも飛び道具を下さい》

「そうじゃな、すまなんだ。ライラプスの今の姿は仮のもので、本来想定しておった仕様がある。空港に着き次第その実現に取りかかるとしよう。ライラプスがとりあえずの実験機でいられる期間は終わったということかのう」

「私達が敵を研究するように、敵もまた私達を研究しています。ライラプスはもっともっと強くなる必要があるわ」

「こんなこと、いつまで続くのかしら……」

 荷物を満載した輸送部隊の行く手に海が見えてきた。満身創痍のライラプスを乗せてくれる余剰のトレーラーなどあるはずもなく、シリウスは失った左腕の補修パーツにするハウンドの残骸を担いで車列を追った。

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