第6話:その少女は鏡に映る自身の姿を

お通夜が終わった後、雪季ゆきと一緒に家に帰った。

骨になった雪季と。

明日は告別式だった。

最後の夜は家で寝かせてあげたい、という両親の希望によるものだった。

父と、母と、祖父に祖母、あと親しい数人の親戚、それにゆうと、雪季も、……。


風呂だの、着替えだの、あと少しお酒も出て、皆が寝静まったのは0時を少し回った頃だった。

ようやく静寂と落ち着きを取り戻した両親は、その時になって初めて、優の姿が見えないことに気が付いた。

両親は少なからず慌てた。

確かに今日も、大人しく静かにしてはいた。

しかしその様子が尋常ではないことは、誰よりも両親が分かっていた。

或いは家を出て近所を徘徊、……

いや、事によると失踪してしまうかも知れない、そんな危うさが今の優にはあった。


両親は優を捜した。

そして優は、すぐに見付かった。


優は、雪季の部屋にいた。

照明でんきを点けずに、しかし窓から射す月の光で、部屋の中は薄っすらと明るかった。

その窓際の、鏡の前に優はいた。

最初二人は、それが優だと気付かなかった。


姿見の鏡の前に、

美しい少女が座っていた。

肩に付きそうなくらいの長さの、さらさらの、なめらかな髪。

白い頬と、

たよりなげな細い首、

華奢な、小さな肩と、真っ白な腕。

片手で、

その軽くて柔らかそうな栗色の髪をいじりながら、

ぼんやりと、

その少女は鏡に映る自身の姿を、

瞬きもせずに、眺めていた。


精密機械のレンズのような美しい目と、

長い睫毛。


その少女は、

水色の上品なデザインのワンピースを着ていた。


ノースリーブの、

シンプルで可愛いAライン。


ちょっとスノッブで、

でもとてもキュートで、

そして少しだけセクシーな、

女の子らしい印象のワンピースだ。


その少女は、優だった。

優が、雪季のワンピースを着ていたのだ。

しかし両親は、最初、それが優だとは思わなかった。


雪季が、――

帰ってきたのだと思った。


冷たく静かな月の光に導かれて、

雪季が、うちに帰ってきたのだと思った。


両親は、また泣いた。

母親は、優の隣に座り、その小さな頭と、濡れたように美しい、その髪を撫でた。










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