第14話:セーラー服にマイクロミニの金髪の美少女は、

「優、なんか楽しいことあった?」

隼人が優に訊ねる。

「なんで今きくの?おかしくない?」

優は笑ってしまう。だって、さっきまであんなに泣いてたし、今だって枕に顔を押し付けて泣き顔を隠しつつ、内緒で涙を隼人の枕に吸わせてた訳だから。

「泣き方が、その、いつもより、……」

「いつもより?」

分からない、何が言いたいんだろう。

「感情的、というか、えっと、……エロかったから」

「えーっ!やらしーハヤト、なんかエッチすぎるっ!」

怒る場面?でもやっぱり優は吹き出してしまった。どれだけぼくのことが好きなの?とか思ってしまう。自意識過剰?

「質問に答えてない、優、答えてよ、何があったの?」

「先生みたいだね」

「先生だよ、だって」

「あんなことしたのに?いけない先生だね、ハヤト」

先生とは普通、全裸の生徒を、それも男子生徒を、ベッドに横にしたりうつ伏せにしたりして、肌に触れたり、髪の匂いをかいだり、そして、その、……あんなこと、きっとしないと思う。違うかな?

「重かった?」

「生々し過ぎるっ!やめてよ」

「痛かった?」

「だから、……」

あの時、ぼくが泣いちゃうと、ハヤトは、とても心配してくれて、とても優しくしてくれて、そして、……もっと激しくなって、そしてぼくはもっともっと泣いてしまう。悪循環だ。

「悪循環だ、と思う」

優は口にしてみた。

「でもそれは、優が、あんまり可愛いから、……」

通じてた、不思議。

「だから教えて、優のこと聞きたい」

しょうがない、優は目を伏せ、ちょっとだけいたずらっぽく笑って、昨日出会った女子高生のことを話した。楽しそうに笑ってぼくを見ながら、ロリポップキャンディーを咥えてた、あの娘。


「シェアして飲もうよ、高いし」

「賛成っ!」

広い書店の中央にあるカフェに入った。照明を落として少し暗めの店内は落ち着いた雰囲気で、価格設定も中高生には少し高めだった。

「ミルクティーの方でいい?」

「で、いいよ」

カウンターで注文し、二人で出し合って一緒に精算すると、そのまま飲み物を受け取って書店の通路に面した二人掛けのテーブル席に座った。

「月影マリン、高一、よろしくね、今日は部活の集まりの帰り」

セーラー服にマイクロミニの金髪の美少女は、そう自己紹介する。


部活動、何をやってるんだろう?やや大きめのスポーツバッグを持っていた。カラフルな熱帯魚がたくさん泳いでいるイラストがプリントされた、ポップアートっぽい、可愛いデザイン。

実は優も、同じようなサイズのスポーツバッグを持って来ていた。コインロッカーに預けてあったけど。


彼女は、右手で髪を掻き上げる。その仕草が、ちょっとだけセクシー。さすがホンモノの女子、慣れた感じ、自然。

そして、潤いを含んだ白い肌がとても眩しい。


「わたしは、……」

次は優の番、でも言い澱んでしまう。だってそのまま名乗れば「男の娘」バレしてしまう。


「成瀬、……」


息をそっと吸い込むと優は、思い切って、言った。


「ユキ」


目の奥が急激に熱くなり、視界が一瞬白く眩んで、何も見えなくなった。


「中二、です」


すぐに視界が戻った。表情は変わらなかった、と思う。


そうして、

女の子どうし?でタピオカミルクティーをきゃーきゃー言いながらシェアして飲む、という密かな夢を、優は実現することができた。うれしい気持ち。

「あめ、好きなの?」

優は訊いてみた。

「ロリポップ」

気になっていた。今の時点では舐めてなかったけど。

「ああ、あれ?別に好きって訳でもないけど」

「ふーん、じゃあなんで?」

「何でだと思う?」

マリンは甘い匂いのピンクのくちびるを、いたずらっぽくUの字形にして返す。何かを試すような、測るような眼差し。

「えーっと、……やっぱり分かんない、なんで?」

マリンはちょっと安心したように、ふっと息を吐くと、表情を緩め、

「えへへ」

と笑ってから、ちょっとからかうような目線で、答えた。


「ナイショ」



















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