第6話 交渉
王様からは、息子のアレな発言の後で言い難そうにしつつも、実際困っているのは本当なので、今すぐじゃなくてもいいから出来れば協力してほしい旨と、今後も王城に滞在してほしいとやんわり要請された。
言い方って大事だよね。
王太子様ももう少し考えれば、いきなり敵対状態にならなかったのに。
自分を誘拐した張本人である犯人に、どうせここで暮らすだろうとか言われて快く協力する被害者なんている訳がない。
まあ、どの道協力するつもりはないんだけどねー。
一応『将来的にはわからないけど』と含みを残した上でどちらもお断りした。
王太子様がまだモゴモゴ言ってたけど、私は勿論、身内からも完全無視されてた。ざまぁ。
最初から協力するつもりなんてなかったし、城に滞在して変な柵作らされるのも御免だ。
なにより安心して食事できない生活なんて絶対ヤダ!
逃亡資金をせしめてとっととトンズラしたい。
一人で生活するにあたって、必要なのはお金と知識。
お金はあちらの弱みにつけこんでぶんどれば直ぐに用意されるだろうけど、知識を得るには時間がかかる。
常識的な事を知らないまま一人で生き抜いていくのは不安だけど、教育を受ける為に長くここに留まれば、今度はアレコレ理由をつけて出してもらえなくなる。それにここの人達が本当に正しい知識を私に与えるかどうかも怪しいし。
あっちが多少でも罪悪感もってる内に脱出しないとね!
「私は……気持ちの整理をつける為にも一人でこの世界を見てみたいです」
「一人でなんてとんでもないです! 護衛の者を手配しますのでこのまま城でお過ごしください」
「いえ、護衛は結構です」
「ですがっ…」
「何も知らない私では一人なんて無理とまで言われましたし?」
「…っ!」
「いや、それは……」
私の言葉を聞き、先程までの勢いを失くした宰相と、自分の失言を指摘されてビクリとする王太子様。
この人謝罪もしないんだなー… さっきも父親が謝っただけだし。
「どんな風にするのかは知りませんけど、召喚者は神や精霊と繋がりやすいってお話でしたよね?」
「あ、はい」
「そして精霊とかの恩恵で生活が成り立っている、と」
「その通りです」
「それって私が恨みや怒り、負の感情を持つ事で悪影響が出たりしないんですか?」
「!!!」
皆、目を見開き驚いた顔をしている。
協力してもらうのが当たり前になってて考えた事もなかったのかな…?
そういえば自分から勇者呼びを求めるような人が召喚されてたんだっけ……
「助けて、勇者様」とかお姫様に言われたら喜んで俺TUEEEEしてたのかも。
「……」
「可能性としてはないとは言えんな」
「お祖父様……」
「でしたら、護衛も供もいりません。私はまだ、この国も、あなた達も、赦した訳ではありません。
……信用ならない人と共に行動したくない。
あなた達の思惑に沿った様子を見ても意味がないですから。自分の目でこの世界を見たい」
暗に信用してないから一緒にいたら余計怒って世界に悪影響与えちゃうよー、と言ってみる。
これなら強く引き留められないよね?
一応引き留められたものの、脅迫じみた私の要望は案外あっさり通った。
脅迫内容もそうだけど、親の敵というワードは中々強力だったようだ。
路銀と着替え等を用意すると言われたので、市井で怪しまれないように細かいお金が欲しいとお願いしておいた。
そうして用意された金貨20枚が入った小袋と、2つの小袋に銀貨が50枚ずつで計100枚。円とかドルみたいな通貨の名前は特にないようだ。
本当なら銀貨の下に銅貨もあるそうなのだけど、城で使う事がないので急には用意できなかったらしい。
銅貨が100枚で銀貨が1枚、銀貨が100枚で金貨が1枚。
……お釣りですぐに銅貨がくることを考えたら財布が嵩張りそうだなぁ……
お金の他に食料や着替えの入った背負い鞄を受け取って城を出る。
大きな通りを道なりに進むと広場があって、たくさんの露店で賑わっていた。
露店も気になるけど、まずは荷物を揃えなきゃね。
何か仕込まれてる可能性もあるから、城で受け取った物をそのまま持ち歩くことはしたくない。
街の人に雑貨や服が買えるなるべく品揃えのいい店がないか聞いてまわり、大通り沿いに大きな店を構える商会にたどり着いた。
話を聞いた相手にも道行く人達にも驚かれひそひそされてるような感じだったから、日本の服装が悪目立ちしたのかな?
女性の服装としては奇抜だろうけど、男性服だと考えたらスーツはそこまでおかしくないような気もするんだけどなあ……
ここまで街を歩いてみて、やっぱり平民でも女性の短髪は見かけなかったから、かつらを手に入れるか髪が伸びるまで男装する事に決めた。
先ずは変に目立たないように服を買って着替えないと。
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