第9話 精霊の瞳

翌朝、眩しさに目を開けると窓辺に置いてた背負い鞄がキラキラしてた。

日の光が反射してるのかな? 小さな窓の割に日当たりのいい部屋だったみたい。



身支度をしてから朝食を食べに向かうと、食堂は人気がなくがらんとしていた。


「あら、お兄ちゃん。ずいぶんゆっくりね。もうすぐ朝食時間の終わるとこよ?」


テーブルを拭いていた女将さんに声をかけられた。今日も寝坊しちゃったらしい。


「すみません、まだ間に合います?」

「ええ、大丈夫よ。そこに座って」


危うく朝食食べ損ねるとこだった。明日から気をつけよう。


女将さんが持ってきてくれた食事が、昨日の串焼きみたいに輝いて見える。


「あら、どうかした?」

「あ、えっと……なんか光ってるような……」

「ああ、お兄ちゃん瞳持ちなのね。最後に来て祝福付きだなんてついてるわねえ」

「瞳? あの祝福って……」


祝福って道具に付く特殊効果じゃなかったの? 思わず聞き返してしまったら女将さんに不審な目でみられてしまった。

慌てて「実は両親が早くに亡くなって田舎で一人暮らししてたのであまり物を知らなくて」と言い訳した。母さんごめん。


理由に納得してくれたのか、気の毒そうな顔をした女将さんが今の時間帯は手が空いてるからと言って色々教えてくれた。


女将さん曰く、あのキラキラ光るのは精霊の気紛れと言われる現象で、その名の通り気紛れに精霊が人や物に祝福や災いを付けて回るらしい。

輝くのが祝福で、食べ物だと味がよくなったり、道具だと便利な特殊効果がついたりする。

ただ本当に気紛れなので、道に転がっているようなゴミに超いい効果が付いたり、道具の使用目的と真逆の効果が付いたりなんて勿体ない事になるのも多いそうだ。


災いだと黒くモヤがかかるといわれてるそうで、祝福のように頻繁に現れる事はないらしいが、見かけたら近寄らないよう言われた。


精霊の気紛れが見える人の事を『瞳持ち』といい、10人いたら半分くらいの割合が瞳持ち。瞳持ちのうち1~2割の人が詳しい効果が判り、精霊の声を聴くことが出来る『耳持ち』と言われる人は大きな街に一人いるかどうか位の割合。

精霊の姿を見たり、会話したり出来るような人は数百年に一人出るかどうかという程珍しく、勇者や聖女以外にはほぼいないらしい。



勇者や聖女、つまり召喚者なら全部視れる、と。なら私でも祝福の効果が判るはず?


輝く朝食をじっと見つめる。

光ってるのは判るけど効果なんて……あ、なんかパンが『柔らかいよー』って言ってるような感じがする。

ゲームのように『柔らかさ+5』とか『甘味アップ』みたいな鑑定はできないけど、意識を向けることで何となく効果が感じれるっぽい。


──あっ!! 昨日買ったやつ、目立たないようにって注文なのにずいぶん明るい色合いのバッグだと思ってたけど、もしかしてあれも祝福で光ってた!? ……ということは朝のあれも日の光じゃなく…………ヤバい。あの光りようは多分ヤバい事になってる気がする。食べたら確認しよう……


女将さんはまた判らないことがあったらいつでも聞いてと言って仕事に戻っていった。

詳しく教えてもらって助かったー。後でお礼に甘味か何か買って差し入れしようかな。


用意してもらった朝食は話してる間に冷めちゃったけど、薄い塩味のついたスープは胃に優しい感じで朝に丁度良く、ラノベでお馴染みの堅いはずの黒パンは祝福のお蔭でふんわり美味しくいただけて大満足。



お腹も満たされたので、部屋に戻って早速鞄の確認。

窓辺から日の当たらない場所に鞄を移す。

日陰でも相変わらずキラキラしい。うん、間違いなく鞄自体が輝いてるね。

さっきパンを視たように鞄に意識を向ける。


『軽くなるよー』

『いっぱい入るよー』

『遅くなるよー』


なんだろう、この弛い感じ。


気が抜けるのは……まあいいとして、これって三種類効果が付いてるってことだよね?

目立たないようにわざわざ一種類の祝福しかない鞄を買ったっていうのに、たった一晩でグレードアップとか……

本来幸運を喜ぶべきなんだろうけど、どうしようこれ? 困る。



でもまあ……


「精霊さん、祝福をありがとう」


自分的には目立ちたくないし困っちゃうんだけど、でも祝福してくれたんだからお礼は言っておこう。

気紛れだとしても好意を向けてもらったんだし。


そう思って鞄に向かって声をかけたらキランとまた一光りして……


『濡れないよー』


うわっ、また増えた!!!

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