第8話 露店巡り

無事着替えも済ませて、城で貰った物も手放して。さすがにあの場でじゃらじゃら詰め替えるのもどうかと思って、お金が入ってた袋はそのままだけど、詰め替え用の袋は買ったし後で入れ換えて元の袋は処分する事にしよう。



さてこれからどうしよう?

本格的に行方を晦ます為にすぐ王都から出るか、落ち着くまで留まるか。


周囲を眺めながら考えてたらきゅるる~とお腹が鳴った。

そういえば果物しか食べてないんだった。

先ずは食事しよう。


この世界の食事が口に合うかわからないので、飲食店に入る前に露店で売ってるもので先にお試し。

下手に店に入って一口しか食べれなくて全部お残しとかになったら困るからね。


食べ物を扱ってる露店をチラチラ見て回ると、果物が一山銅貨2枚くらい、串焼きが銅貨4~6枚くらい。

うーん、銅貨1枚で50~100円程度の価値ってとこかな?


………あれ? って事は金貨20枚って相当な大金じゃない?

うわ、せいぜい20~30万円程度の感覚だった。こんな大金持ち歩くの怖い……どっか預けられる場所がわかったら預ける事にしよう。


大金持ち歩いてると思うと挙動不審になりそうなので、一旦頭から追い出して考えない事にする。

金貨を入れた財布は腰紐にくくりつけた容量拡大バッグの一番下に入れてあるから落とすことはないだろう。

万が一スリにあっても、上にあるのは銅貨の入った財布だ。被害は少ない。多分大丈夫。



視界の端に何か光ったような気がして振り返ると、キラキラというかツヤツヤというか、なんだか輝いて見える串焼きを売る露店があった。

美味しそうに見えたので一本購入。銅貨6枚、ちょっとお高め。

商会での買い物で銅貨のお釣りがあってよかった。露店で銀貨なんて出してたら嫌がらせ以外の何物でもないよ、露店の人が90枚以上のお釣りを出さないといけないなんて大変だもの。


その場で一口ガブリ。肉、めっちゃ柔らかっ! うまっ!

あまりの美味しさに追加でもう一本。あ~美味しかった!


お腹は膨れたけど喉が乾いたな……

飲み物を売ってる露店を探したけど、葡萄酒やエールばかり。んー…飲めない訳でもないけど今は気分じゃないなあ……


少し歩いたとこで漸く果実水を売ってる露店を発見したのはいいけど、カップや水袋など容器を持参しないといけないらしい。

どこで買えるか聞いたら、お隣の露店で売ってた。商売上手だなあ。


後々必要になりそうだから木製カップも水袋も両方購入。木皿も売ってたからついでに二つ買っておいた。


露店巡りで意外と時間をくってしまったようだ。少し薄暗くなってきた。

今日は諦めて宿に泊まろう。

水袋に果実水を買ったついでにいい宿がないか尋ね、果実水売りのおっちゃんお薦めの宿、穴熊亭を紹介された。


場所は露店のすぐ裏。隣の露店といい、宿屋といい、なんだかずいぶん都合いい配置じゃない? グルになって商売してんだろうか……?

どうも疑問が顔に出ていたらしく、宿を発つ冒険者が水袋に入れる果実水や葡萄酒を求めるので、宿屋の近くにそういった露店が集まりやすいんだと教えてくれた。なるほどね。


穴熊亭なんて名前だし、ファンタジー的お約束で熊獣人を期待してたけど、宿屋に居たのはちょっと大柄な体格の人間のご夫婦だけだった。残念。


朝食付き一泊銅貨35枚、夕食は別料金で銅貨8枚。


少し考えて三泊お願いすることにした。

旅をするための買い物も終わってないし、何より他の街の情報収集をしてからじゃないとどこに向かえばいいのかも判らない。

早くここを離れたい気持ちもあるけれど、安全第一で行動しないとね。


露店の買い物を考えると銅貨の在庫が欲しい。

お釣りを数えるのが大変そうで申し訳ないけど銀貨2枚でお支払い。


銀貨を受け取った女将さんはカウンターに木枠を並べ、そこに銅貨を詰めていく。

どうやら木枠一つで銅貨10枚入るようだ。木枠九つに端数を数えてお釣りの集計完了。なるほど100枚単位なんて不便で大変だと思っていたけどこんな道具があったのね。

銅貨も銀貨も同じサイズなのは木枠を使うためなのかもしれない。

自分用にもちょっと欲しいな、どこに売ってるんだろう、あれ。



串焼きでお腹が膨れてたので夕食は断り、女将さんから鍵を受け取って部屋に入る。

さて、忘れないうちにお財布交換。

城で貰った袋から買った物にせっせと詰め替えて、空になった袋は捨てやすいように一纏めにしておく。


ここまでする必要はないかもしれないけど、気分的にも城の物持ち歩くの嫌だし、ここがどんな世界か判らない以上慎重に行動するのは悪いことじゃないはず。


早いうちにこの世界の情報を仕入れないとなぁ……

ラノベ展開だと冒険者ギルドにお世話になるとこかな? 明日にでもちょっと様子を見にいってみよう。



すっかり日が落ちて灯りも何もない部屋は真っ暗になった。蝋燭の一つでも買っておけばよかったかな? 起きていたところで何もすることもないけど。一応いざという時に備えて後で買っておこう。


あの素晴らしい寝心地を思うと、ベッドだけは城が恋しいなあ。

城のは勿論、日本の安物パイプベッドにも劣る寝床に横になる。



母さん大丈夫かな……。手術成功しますように。


なかなか寝付けなくてぼんやりと母さんのことを考えてたら、ほんのり何かが光った気がした。流れ星かな? 願いが叶うといいな。

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