第7話 買い物
男を装うと決めたので、演技は必須! 素で接していればすぐバレちゃうからね! ……お城で勘違いされてたのは、服装からくる向こうの思い込みのせいで私が男っぽい訳ではない、はずだ!! そう思いたい。私の精神のためにも。
とにかく演技! 元々の地声もそう高くはないけれど意識して低めの声を出すようにした。
店に入って奥の方にいた女性店員さんに声をかけると、一瞬驚いた顔をしてからちょっと迫力ある笑顔でにっこりされて、用件をいう暇もなく別室に連れられ、上の者が来るまで待つように言われた。
え、なに? どういう事?
もしや不審人物扱いされてるの!?
ええー……これってそんなに酷い服装なのか……?
暫くしてから満面の笑みで現れた責任者っぽい人は、ダボついててシルエットは野暮ったいものの、オリーブ色のベストに濃茶のスラックス、白いシャツを着ていて、特別自分の格好がキテレツ扱いされる程の差を感じなかった。
あ、でもシャツもベストもボタンじゃなく紐になってる。
もしかしてボタンがない?
いや、違う。王様の服装はマントで隠れてよく判らなかったけど、確か王太子様も宰相も金ボタンがついた服だった。
私のスーツも金色の飾りボタン(プラスチックみたいな安っぽいやつだけど)だし、そんなにおかしくはない、よね?
「ようこそおいで下さいました。商会長のウエルと申します。
当ロスリー商会は貴族の方にも自信を持ってお薦めできる品質の物を取り扱っておりますので、お客様にもきっとご満足いただけると思います。本日はどのような物をお探しで?」
……ん?
どうやら不審人物だから別室に連れられた訳じゃないっぽい? それどころかわざわざ商会長が対応ってこれ上客扱いなんじゃ……
うーん、ラノベだと日本人の扱いってどんなもんだっけ?
あ!! 日焼けのない肌の白さや髪の艶とかで金持ち扱いされてたの読んだことある!
それに日本ではありふれた安物の合皮のブーツや化繊の服も、女性用だからこその刺繍入りブラウスも、ここでは光沢のある上質な生地、手の込んだ刺繍の高級品に見えるんじゃ!?
……そういや、王太子様が王族との婚姻が『元の身分に釣り合うだろう』とか言ってたわ! もしかして私異世界の王族か高位貴族だと思われてたのかっ!!
そりゃあ『身内を見殺しにさせた』事をヤバいと感じるはずだ。もしも本当に王族だったら国が傾く危機だもの。
「お客様?」
「ああ、いやなんでもない。リーンという。家名は伏せさせてくれ」
「お忍びという事ですね、畏まりました。なるほど、それでお一人で」
予想が合ってるか確認の為、内心ドキドキしながら偉そうに話してみる。
ひー、怖い。でも問題なく会話成立したから予想が当たったっぽい。
名前はいつもSNSやゲームで使ってるやつにした。本名が鈴だからリーン。
ちなみに名字は高木。どうせなら高井だったら「高い鈴」で高級品だったのにね、とからかわれていた。
「旅人か商人が着るような平民風の服をいくつかと鞄、あと革の小袋を4~5枚欲しい」
「畏まりました。お色のご希望などは?」
「すべて任せる。目立たないような物で頼む。
ああ、あとこれを中身ごと全て売りたい。気に食わないやつが手配した物を持ち歩く気にならなくてな」
売る理由が他に思い付かなくて凄い偉そうになったけど特に不審がられる事はなかった。
「こちらの鞄は精霊の祝福がされてますね。新しくご用意する物も祝福付きになさいますか?」
精霊の祝福ってなんだ?
聞きたいけど聞いたら変な顔されそうな気がする。
「…平民が持ってても問題ないものか?」
「そうですね……こちらのお品のように複数の祝福や珍しい効果ですと目立ちますが、重さ軽減か容量拡大、どちらか一つであれば問題ないかと」
特殊効果付きって事かな?
流石王家からの支給品。どうやら高級品だった模様。
「では重さ軽減で大きめな背負い鞄と、容量拡大の一番小さなものを一つずつ」
「畏まりました。こちらは中の物も含めて金貨8枚でのお引き取りになりますがよろしかったですか?」
「問題ない」
相場も金貨の価値も何もわからないしね。
全部お任せですよー。
「お待たせしました。こちらが容量拡大付きで腰紐にかけれるようになっております。
腰紐もご用意いたしますか?」
腰紐……ベルトかな?
「そうだな、頼む」
「畏まりました。こちら服が3着、ご確認下さい。重さ軽減の鞄にお入れしますか? 別にお包みしますか?」
「鞄の方に。あと今これに着替えていきたいのだが」
「ではこちらの部屋をそのままお使い下さい。お手伝いの方は?」
「いや、結構だ」
着替えの手伝いなんてされたら女だってバレちゃう。
万が一バレなかったとしても、それはそれでめっちゃ凹むからお断りします!
鞄を二つも買ったのに、全部で金貨1枚銀貨35枚銅貨50枚だった。
買い取りで金貨8枚って事は売値だともっとお高いって事だよね?
あの鞄一体どんだけ特殊効果ついてたんだろう……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます