第81話 新生活
トーカヤでの新生活は、今のところすこぶる順調。
カンエーの街のように他では満足に食事ができないという訳ではないので、毎日ラークと夕食を共にする事はなくなったけれど、それでも週の半分くらいは会ったり食事したりしてる。
グラノーラバーの作業手伝い依頼が必要なくなったので、私がラークに依頼を出すのは月に二回程度になった。
私の依頼に縛られる事がなくなったラークは、普段は船の荷下ろし等街中でこなせるような依頼を中心に受け、たまにプチ遠征に出掛けたりもしている。
カンエー周辺にある魔獣の森程ではなくても、街道より更にずっと奥まで行けば野性の獣や、滅多に出ないが魔獣もいる。それらを狩りに行ってはうちに差し入れしてくれているのだ。
勿論、差し入れされた大部分はラークのお腹の中である。
一方私はというと、三週間に一度の石鹸作りはしているが、他に特に予定に追われる事なく穏やかでも退屈な日々を過ごしている、と言いたい所だけど実際には生活にかかる時間が増えて退屈してる暇がない。
以前より大分部屋数の増えた家は、その大多数は使っていない部屋なので、家具に埃避けの布をかけて置いてあるが、だからといって完全放置しておく訳にはいかない。
気分的にも、虫やネズミが心配なのでちゃんと綺麗にしておきたい。
窓を開け空気を入れ換え、軽く掃除をして~を一部屋ずつ順に繰り返せば、最後の部屋が終わる頃にはまた最初の部屋の掃除が必要なくらいの日数が経っている。
買い物についても、この街にも一応ロスリー商会の支店はあるが、事前にカンエーの支店長からも聞いていた通り、ここは海路経由で入る他国の輸入品を仕入れる為の店で、販売にはあまり力を入れておらず、店舗も小さいし品揃えがよくなかった。
なので、精麦した大麦のような特殊な物や、大量買いする物を取り寄せしてもらう以外の日々の買い物は露店を利用している。
広場を中心に沢山の露店が出ている。
ある程度場所が纏まっているとはいえ、数が数だ。あちこちの露店を覗きながらの買い物は、楽しくもあるけれど手間がかかる。
何でもロスリー商会に一括で注文してたのとは違って、買い物だけで随分時間がかかるのだ。
そんなこんなで思ってたより案外時間がとられる。普通はこれプラス更に水汲みもあるのかと思うと庶民の暮らしって大変だよねぇ。
そんな現代日本から考えれば無駄に時間のとられる生活だけど、今の私は暮らしぶりが順調だと思うし、大変満足してる。
なんというか、丁寧な生活してる気持ちにならない?
これこそスローライフだよねぇ。
そして本日の買い物はというと、早起きして港までリベンジです。
ラークに買ってもらった樽の塩漬け魚がなくなったので生魚を買いにきたのだ。
皮を縫って作ったお手製の巾着に、精霊さんから『いっぱい入るよー』と『冷たいよー』の祝福を付けてもらった保冷袋を手に持って、生魚を買う準備はバッチリだ。
結構早めに来たつもりだったけど、もう港には船がついていて荷下ろしの真っ最中だった。
忙しそうにしてるのを邪魔するのは申し訳かいけど、遠慮してたらみんな塩漬けされてしまう! 騒がしい中必死で声を張り上げてなんとか生魚を売ってもらえる事になった。
塩漬けされた物を食べて味を知ってる物を中心に買いまくる。
「おいおい、兄ちゃん。そんな買っても腐らせるだけじゃねえか? いや、買ってくれるのは助かるんだけどよ」
「魚の扱いは判ってるから大丈夫。あ、そっちの大きいのも一つほしいな」
「ほんとに大丈夫かよ……ああ、これだな。ほらよ」
『いっぱい入るよー』の祝福サマサマ。心配する船員さんを横目にたっぷり買いまくった。
塩漬けする手間も塩代もかからず売れるのは嬉しいだろうけど、生魚を欲しがるのが理解できないといった顔の船員さん。
そんな心配しなくても大丈夫だよー?
またたまに買い物に来るのでよろしくと挨拶して、思った以上の成果に上機嫌で帰路についた。
さあここからは時間との戦いだ。
帰宅してすぐに買ってきた魚を選別。刺身用とそれ以外に分ける。
刺身用以外は一旦保冷袋に仕舞い直し、刺身用の魚をどんどん下拵えしていく。内臓を取り出し、血合いを綺麗に洗い流してから三枚におろして、半身の状態のまま事前に用意しておいたトレーに並べて冷凍箱へイン。
寄生虫が怖いから刺身用は全部一回冷凍するのだ。鮮度を落とさないように魚用の冷凍箱は冷凍速度を早めてもらってる特別製。
刺身の為の事前準備に抜かりはないぜ! ふふふのふ。
あー、楽しみぃ!
さて、いい感じのテンションのまま残りの下拵えもやっちゃいますか!
作業しやすいように大きめの桶に保冷袋の中身をあける。
ドドドと袋から流れ落ちる魚達。
…………あ、流石にちょっと…買いすぎちゃった、かな……?
こんもりと桶の上に盛り上がってる魚の山に、これからこれ全部下拵えするのか……と、ちょっと気が遠くなった。
教訓。買い物はよく考えて、船員の忠告もちゃんと聞きましょう。
ご利用は計画的に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます