第5話 誤解

悲報。ワタシ、オトコアツカイサレテタ。



改めて自分の姿を考えてみる。

濃紺のパンツスーツにカーキの秋物のコート、ショートブーツ。

上司が派手な化粧を嫌がるので、昨日はすっぴん風ナチュラルメイクで、昨日の召喚された部屋は薄暗かったし化粧に気付いてなかったかもだし、今日に至っては完全すっぴんだ。おまけに生気のないと言われる地味な顔。

髪は少し茶色がかった地毛のショートボブで、ここに居る男性陣の方がよっぽど長い。全員がそうということは、男性でも長いのが普通なのかもしれない。

そしてとどめはこの凹凸の少ない体に女性にしては低めの声……


……うん、女性に見える要素がなかった。

いやっ! 日本ではちゃんと女性扱いされてたよ! 男に間違われた事もないし!

でもここがラノベ的ファンタジー世界だと考えたら、きっと女性なら髪を伸ばすのが当たり前で短髪なんて考えもしないだろうし、服装だってズボンではなくドレスなんじゃないだろうか?

そうか、それで聖女じゃなく勇者……男に見えたから勇者……ふ、ふふふ……


「あの…わたくしを望んでくださるなら、精一杯お務めさせて頂きます。

わたくしではご不満でしょうか……?」

「いや、そういう事では──」


落ち込んでたのは男扱いされてたのがショックだったからであって、そもそも自分は女だから王女様と結婚なんてできない、と言いかけて言葉が止まった。



──ここで女だとバレたらどうなる?



聖女の血を残すとかいって無理やり手籠めにされるんじゃないか?

そうじゃなくても男性に婚姻を迫るより、女性に婚姻を強いる方が簡単だ。

この人達はそれほど悪人には見えないけど、でも自分の世界の問題を解決させる為に、全く無関係な人を相手の都合お構い無しに強制的に呼びつけるような人間でもある。


…………とてもじゃないけど信用なんてできない。



「……王女様がどうとかではないです。ですが感情的にはこの国と縁を結びたいとは思えません」

「それは……」

「あなた達には他に方法がなかったのかもしれない。でもそれはあなた達の都合であって私には関係ありません。

私からすれば、自分達の世界の厄介事を無関係な他人に、しかも強制的に押し付けるのは無責任で自分勝手でしかないです」

「……」


「だ、だが……帰る方法がない以上、貴方もどうせここに暮らすしかない……何も知らぬ貴方は一人で生きていけない、国の助けが必要だ。国が困窮して困るのは貴方も一緒だろう? それなら……」

「お父様っ!」

「だから、手を貸せと?

……親を見殺しにした原因である敵相手に?」

「──っ!」


王太子様の身勝手な言い分はさすがに頭にくる。

敢えて『親の敵』と敵対の意思表示をした。


「客人よ、愚息の非礼を詫びよう。

確かに我らは無責任で自分勝手だと罵られて当然な事を其方に強いた。申し訳ないと思っている」


王太子様の言い様は身内からしても問題ありと判断されたようだ。

ため息混じりに王様が謝罪し、それを見た王太子様が言葉を失っている。


なんだかなー。

王太子様も結構いい年だっていうのに漂うこの残念感。とてもじゃないけど発言に責任もたなきゃいけない王族とは思えない言動だ。

いつまでも親が現役で、何かあれば親が責任をとってくれる気楽さが時期王としての成長に差障りがでたのかもしれない。


最初の発言から考えるに、民を思う気持ちは本物なんだろう。

周りは自分に傅き従うものと思う傲慢さはある意味王族らしいといえるかもしれない。

でも私は臣下でもないし、現在進行形で迷惑かけられてるのに、更に働け、自分達の役にたてとか言われてもしらねーよと。


何度も言うけど、絶対言いなりになんかならないんだからっ!

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