第12話 ロスリー商会

お姉さんのお蔭で手早く王都を出る算段をつけられて上機嫌でロスリー商会へ。

忘れない内に調味料とかを買うのだ。

軍資金はたーっぷりあるし、お高い香辛料もガッツリ買っちゃうよー♪


ただでさえ慣れない野営で、ご飯もショボい・不味いじゃやってられないからね!



今日は目立つ服装してる訳じゃないし、店内をじっくり見て回ろう……と思ったら、昨日私を即別室に放り込んでくれた女性店員が顔を覚えていたらしくて、商会長を呼ばれてしまった。

ちょっ! 有能過ぎる!!

てか、なんでわざわざ商会長呼んでくるのー!!!


「これはリーン様、ようこそおいで下さいました」

「あー………今はただのリーンとして来てる。目立つのは困る」


平民服着てる意味がなくなるからね!

というか、ゆっくり見たいからほっといてほしいんだけどな。


「それでしたら、私が売場に出ている時はお客様の身分に関わらずお手伝いをしてますので問題ございませんし、別室のご用意もできますが」


あ、これ言っても無駄なやつだ。


「そうか……まあ、わかった。せっかくだし売り場を見たいのでこのままでいい」

「本日は何をお探しで?」

「この姿で数日旅をしてみようと考えてるんだが、食事が不味いのは慣れないからな。質のよい保存食や調味料が欲しい」


自分でアレコレ見て選びたかったけど、ウエルさん離れる気ないみたいだし、それならもう一番いいやつ見繕ってもらうことにした。


貴族ぶりっこで会話に疲れる代償に、平民向けの売場にはないようなの出してもらおう。

あ、そうだ。


「ご婦人が喜びそうな菓子はないか? 挨拶に配りたいから三人分包んでくれ」


一つは女将さん用。後は自分用と、もしも依頼を受けてくれた冒険者が女性だったり甘党だったら食べてもらう為の予備。


「畏まりました。保存食の量はいかほどになさいますか? 確か背負い鞄は重量の……おや?」


あ、そうだ。この人詳細の見える瞳持ちだった。

んー。宿屋で祝福付いたなんて言って、精霊のいる宿とか噂が立ったら、後から女将さん達が大変になるかもしれないよねぇ。ちょっと誤魔化しておいた方がよさげ?


「ああ、偶然食事に入った所に精霊がいたようだ。その場で鞄と食事に祝福がされた。見られてるのでそのまま使おうと思っている」

「それは幸運でございましたね。昨日の物より素晴らしい祝福が付いておりますよ」


……え? 金貨8枚の鞄より高級品ってこと?

数百万円以上の価値とか、ブランドバッグでもそんなの早々ないわっ!!!

パッと見ではわからないとはいえ、これ持ち歩いてて大丈夫なんだろうか……


でもこれから数日旅をすると思うとこの効果は手放し難いなあ。

まあ、道中は冒険者もいるし、とりあえずは大丈夫だろう。

向こうに着いてから売るかどうか考えよう。


深く考えるのを先送りにして予定の物と、旅には必要とお勧めされた物をどんどん購入。

……『いっぱい入るよー』の効果恐るべし。まだ余裕あるよ。

入りきらなかったら追加で鞄を買おうかと思っていたけど余計な心配だったようだ。

重さ的にもまだ大丈夫そうだったので、追加でお酒を購入。料理にも使えるから無駄にはならないはず。



買い物を終えて宿に帰る。

まだ食堂が混み合う時間前だったので、鍵を受け取りついでにお菓子を差し出した。


冒険者ギルドに護衛依頼を出したので見つかり次第王都を出る事を伝え、女将さんが色々教えてくれて本当に助かったのでお礼です、と。

女将さんは「まあまあ! この子ったら。気を遣わなくていいのよー!」と言いながら凄く嬉しそうに受け取ってくれた。

すんなり受け取ってくれてよかった。ご主人と仲良く食べてね。



翌朝。昨日よりはちょっと早起きできた。

食事を取って一休みしてから冒険者ギルドへ。

昨日の今日だし、すぐに護衛が見つかるとは思ってないけど、電話もメールもないから小まめに顔を出して確認するしかない。


「あ! リーン君丁度よかった!」


ギルドに来るなり昨日のお姉さんに捕獲されてしまった。

手を引かれて受付カウンターまで連行される私。え、ちょっ、何事!?


連れてこられた受付には数人の男女。

あ、依頼を受けてくれる人が見つかったって事かな?


「リーン君あのね、依頼希望してる人が来たんだけど、ちょっと困った事になってるの」

「困った事?」

「ええ。昨日の内にソロの冒険者が一人申し込みにきてて、でもまだ最少人数に達してなかったから依頼書はそのまま掲示してあったの」


あー。話の先が読めた。

昨日一つ枠が埋まった所にカウンター前にいる五人の男女。一気に申し込みがきて一人溢れちゃったか。

ところでお姉さん、昨日よりずいぶん気安くない? こっちの方が話しやすくていいけど。


「一人多く希望者がきちゃったって事ですか? こういう時って普通どうするんですか?」

「うん、そうなの。判断は依頼者さん次第よー? 絶対先着順で決めなきゃって事でもないし。大勢集まった中から好きに選んで決めてもいいのよ?

人数増えた分、報酬を交渉するのもありだし」


お姉さんの話では、今いる五人は同じパーティーらしい。

なので、選択肢としては


・六人全員雇う

・ソロ冒険者を断って五人パーティーを雇う

・ソロ+五人パーティーの内の四人を雇う、もしくは四人分の報酬でパーティー全員を雇う

・パーティーを断って他の人が来るのを待つ


こんなもんかな?


最後のはナシだなあ。なるべく早く旅立ちたいし。

かといって、せっかくすぐに応募してくれたソロの人を切るのもヤダし。

同じ仕事してるのにパーティーの人だけ安く働けっていうのもなあ……

幸い今のところ資金に余裕あるし、五人が六人になってもまあいいか。


お姉さんに全員雇うと伝え、可能なら明日発ちたいので連絡をお願いした。


「今日の昼頃に確認に来ると言ってたから大丈夫だと思うわ。

……あと、リーン君、昨日はありがとう。美味しくいただいたわ。お礼も言わせずスマートに立ち去るなんて、女の扱いに慣れてるのね」


ちょっ!!! 変な事言わないでー!

パーティーからの視線が痛いよ!!!

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