第11話 相談
恥ずかしいこと見られて気まずいけど、まだこちらを見て微笑んでいるお姉さんの視線を無視して他の受付嬢の所に行く、なんて神経太い事出来ないよ……まだちょっと赤い顔のまま受付に向かう。
「こんにちは。冒険者登録ですか?」
ニコニコしながら話しかけてくるお姉さん。
お姉さんといっても、多分この人二十代半ば、同い年くらいなんだけどねー。
とはいっても、こっちは若く見られる日本人。きっと同い年とは思われないだろうなあ。
まして今は『私』じゃなく『僕』なんだし……って、あああぁ。そうだ、平民男性のふりをするなら僕か俺の方が自然だよね? 勿論一人称私の人もいるだろうけど、そういうのはもっと年配だったり、お堅い職だったりなイメージ。
貴族扱いされてる時は私で正解だろうけど、平民男性のふりしてる間は僕でいこう。
「いえ、あの……依頼をするか考え中なので相場とか教えてほしいんです」
「わかりました。具体的にはどんな依頼になりますか?」
「まだ行き先が確定ではないですけど……カンエーかゾウエの街への護衛。後は旅や野営技術の指導です」
「え、カンエーかゾウエですか?」
お姉さんが不思議そうに聞き返してくる。
それもそのはず、カンエーは王都から北東、ゾウエは南西と、位置も街の特色も真逆の方向だ。
女将さんから聞いた話だと二つの街はどちらも王都からそう離れてなく、同じくらい規模の大きな街らしい。
カンエーは近くに魔獣の出る森などがあり、街を拠点とする冒険者が多く、その冒険者の集める素材を目当てに商人も集まるという活気ある街。
ゾウエは比較的穏やかな気候と肥沃な土地に恵まれ、農業酪農を中心に発展した王都の
食糧庫ともいえる街。
勿論女将さんのお薦めはゾウエの方。
活気があるというのは人や物の出入りが多いという事で、また冒険者の中には破落戸と変わらないようなのもいる。カンエーはゾウエより治安がよくないのだ。
あれだけ心配してくれた女将さんが、細っこい若い兄ちゃんに見える私にカンエーを薦める訳がなかった、が……
「一応、今の所はカンエー行きを考えてます」
「うーん、そうですね。カンエーなら行きたがる冒険者は多いと思いますよ。拠点を移すついでに依頼を果たせますから」
私にだってできるだけ安全な土地で暮らしたい気持ちはある。だけど今の王都から逃げ出そうとしている身には、人の出入りが激しい方が都合いい。
後から足取り追いにくくなるだろうしね。
だからカンエー行きがいいかなーと。
「カンエーまでの距離の護衛だと一人辺り銀貨5~8枚くらいですね」
あ、一人每に報酬出すんだ? ラノベだとパーティーで総額いくらみたいな感じだったけど、それだと分配でモメたりありそうだし、こっちのが合理的かなあ?
「ゾウエだと?」
「カンエーより人が集まりにくいので、銀貨1~2枚プラスするのが多いです」
ふむふむ、どちらも距離は同じくらいと言ってたけど、やっぱり行き先によって依頼料変わるのねー。一応聞いてみてよかった。
「技術指導の方は、基本的にそういった依頼を受けてくれる冒険者は少ないです」
「えっ!?」
マジかっ! 冒険者ギルドでお金払って訓練とか基礎知識学ぶとか、ラノベで定番なのにー!
「そういうのを臨時の少額依頼で受けてしまうと、今後の依頼が減ることになるので。大金を積んで家のお抱えにするとか、条件のいい長期契約になるとか、冒険者に余程のメリットがないと難しいでしょうね」
「そうですか……」
むぅ、そう聞いちゃうと確かになーと、納得できてしまう。自分達の飯のタネを減らす訳にいかないよねー…
くっ……なんでも物語のお約束通りとはいかないかー。
「なので、あくまでも依頼は護衛という事にして、有用な情報には追加報酬ありとかにするといいですよ。相手によってはちょっとしたコツくらいなら教えてくれるかもしれまん」
「あ、いいですね! それでお願いしたいです」
いたずらっ子みたいな笑みをした口に人差し指を当ててこっそりと教えてくれた。お姉さんいい人だー!
今日は様子見だけのつもりだったけど、いい感じに話も纏まったことだしそのまま依頼申し込み。
依頼書作成で預け入れ金として銀貨1枚。これは後で返ってくる。
依頼に応じる冒険者がきて依頼契約成立になった時点で冒険者に半金、ギルドに残りの半金+ギルド手数料を払う。今回みたいに追加報酬がある時はギルドに預ける方のお金と一緒に渡しておく。
終了後、完了書に依頼者のサインと評価、追加報酬を払うかどうかを記入、ギルドに提出して残金を受けとる、という流れらしい。
使わなかった追加報酬金は、依頼者が十日以内に受け取りにいけば返金してくれる。
意外と受け取り忘れの人がいるみたいで、期限過ぎてから騒いだりするらしい。困ったもんだねぇ。
「絶対忘れちゃダメですよ?」ってお姉さんに念を押されちゃった。大丈夫、ケチだから忘れたりしない。
掲示板に張り出す為の木札にお姉さんがサラサラと依頼内容を書き込んでいく。
おぉ、読める。よかった、話せるけど読み書き出来ないとかじゃなくて。
「募集人数はどうします?」
うーん、あんまりうじゃうじゃいても無駄にお金かかるだけだし多くはいらないよねえ。
でもある程度人がいた方が情報得やすいかなー? お喋り好きとか世話好きな人が混じるかもしれないし。
「じゃあ、最少二名、最大五名で」
一人しかこなくて無口な相手だったとかじゃ情報以前に気まずいからね。最低でも二人はほしい。
「追加報酬額はどうします?」
「ええっと……最大銀貨10枚とか?」
「え!? そんなに大丈夫ですか?」
「あ、あのいや、大丈夫です。最初からそれくらい払うつもりだったので!」
お姉さんの想定よりだいぶ高かったっぽい? 釣られて焦っちゃったよ。
でも全部払うとは限らないし、報酬は多めの方が教えようって気になるよねえ?
ついでに護衛報酬も銀貨7枚と、高めに設定しておいた。
記載内容を確認して最後に自筆でサイン。これで依頼書作成完了!
「お名前はリーン君ね。はい、それでは確かに受付しました」
え、君付け!? あれ? 相当若いと思われてる?
まあいいか……
「色々教えてくれてありがとうございました。これ、よかったら食べてください」
「え!?」
女将さん用に買っておいた焼き菓子をカウンターに置いて、お姉さんが戸惑っている間にささっと帰った。
じゃないと遠慮して受け取ってもらえないかもだし。
さて、買ったお菓子を横流ししちゃったし、女将さんのを買って帰らないと。
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