第13話 打ち合わせ

なんともいえない空気を誤魔化す為に咳払いを一つ……した所で視線は変わらない訳ですが。私に王様のような威厳があるはずなかった。


「あー…。依頼主のリーンです。軽く打ち合わせしたいんでそこの酒場で一杯どうですか?」

「おー! いいね、喜んで!!」


奥の酒場を指差して誘ったら、男性陣が大喜びで応じてくれた。

もしソロの人が来たら教えてくれとお姉さんに頼んでから酒場に向かう。


まだ酒場に人の少ない時間なので大きめなテーブルが空いてて、一つのテーブルに全員座れた。

まあ、丸テーブルなんである程度自由はきくんだけど。


適当にお任せでつまみと、各自好きな酒を頼んでもらう。私には果実水をもらった。

全員に行き渡り、口を湿らせた所を見計らって自己紹介。


「えー、改めて依頼主のリーンです。依頼を受けてくださってありがとうございます」

「いや、こちらこそ人数を越えて受けてくれてありがとう。俺の名はアレクセイだ。アレクと呼んでくれ。一応このパーティー、白狼の牙のリーダーをしている」

「おーよろしくぅ~。ジャックス、双剣使いだ」

「ビータよ。武器は弓を使ってるわ」

「ジェイだ。剣も使うが、今は主に槍だな」

「私はセディナだよ。武器は弓と短剣、斥候役をしているよ」


アレクは特に得物を名乗らなかったが、背中に大きな盾を背負っているのでタンク役だろう。

全員の職を聞いて、特に不審な点はないはずなのに、何か引っかかるような……なんだろう?


「んで~護衛対象はあんた一人か? ずいぶん若ぇみたいだが商人か? 荷物はどんくらいになるんだ?」

「いえ、商人じゃないです。荷物は自分で背負うので特に問題は……」

「は!?」

「え、ちょっと待って? もしかしてだけど、荷馬車の護衛じゃなくあなた一人?」

「そうですよ?」

「はあぁぁー!?」


あれ? なんか変だったのかな?

でもお姉さんにも特におかしな顔はされなかったんだけど……


「子供一人守るくらい、二人もいりゃ十分じゃないの!? なんでこんなに人集めてんのよ!」


え、人数が不満なの!?

でも人減らしたらこの人達依頼受けれなくなるじゃん?


「ええ、だから最少人数は二名になってます」

「いや……そういう問題じゃない…。俺達は子供に無駄金を払わす為に依頼を受けた訳じゃないんだよ?」

「そうよ、五人でも多いくらいなのに更に増えるんでしょう!?」


確かに六人は多いだろうけど、それは承知で雇うことにしたんだし。

それより今気になってるのは……


「人数に関しては無理をしてる訳じゃないので大丈夫です。それより子供ってなんですか?」


さっきから子供子供って。一体いくつに見えてるの!?


「そりゃあ、お前さんの事だろぅ~? 子供っつーても、十も過ぎりゃぁ働いてる奴らはいくらでもいるしな。雇い主が子供なのが不満とかそういう話じゃね~ぞ?」

「とっくに成人してますけど……」

「は!? 成人って十六か? いや、とっくになんて言うくらいなら、もう十七になるのか?」


二十五ですが。


……って言っても絶対信じないよねえ?

それにまだ若いって事にしとけば、男にしては華奢な体が誤魔化せるかな?


「十七になるとこです」

「うっそでしょー!? 十四くらいかと思ってたわ!」

「大人びた話し方する子供だなとは思ったが……すまない」

「いえ、貧弱なのでよく勘違いされますから……」


盛大なサバ読みに何となく後ろめたくなって視線を反らしてそう答えた。


それにしても十四って!! いくら日本人が若く見えるっていっても十四は酷い!

お姉さんが君付け呼びだったのもきっと同じように思ってたからなんだろうなあ……


思わず一人遠い目をしてしまう。

そんな私を見て、白狼の牙の面々は居心地悪そうな様子だ。せっかく軽く一杯入って変な空気を払拭した所だっていうのに。



「はぁ……。まあ、気にしないでください。打ち合わせいいですか?」


いつまでも気まずいままいられないので仕切り直し。ため息出ちゃうのは仕方ないよね。


「あ、ああ」

「年の事はわかったけど、荷馬車もないのにこの人数の理由はなに?」

「一人護衛するだけにしちゃぁ、豪勢過ぎるのは判るだろぉ~? それともなーんか護衛難易度上がるような訳でもあんのか~?」

「報酬も悪くない、人数は過剰、内容も楽。さすがに疑いたくもなるわね」


なるほど、旨い話には…的なトラブルを心配されちゃってるのねー。

確かに条件良すぎても胡散臭いかあ……ちょっと失敗。


「えーっと……特に裏事情とか、そんな大袈裟な事じゃないんですが……」

「でもやっぱりなんかあるんだー?」

「う、あー……」

「ほらほら、リーン君。全部吐いちゃいなよー?」


う。また君付け呼びだよ!


「情報は正しく伝えてもらえないと依頼失敗に繋がるしな」

「はい……」


ご尤もでございます……

でもなんか改めて言うと嫌らしい感じもして言い難いんだよねぇ。


「あの、本当に裏があるとか、そういう話じゃなくてですね……ちょっと下心というか……」


下心という単語に白狼の牙の雰囲気が一気に変わった。特に女性陣の目が冷たく鋭い。

って、待って!! 違う、その下心じゃないし!!!


「あっ!! そういう意味じゃないですよ! 誤解です!」

「じゃあ、どういう意味なのかしらー?」


殺気すげぇ……めっちゃ怖いんだけど!



「は、初めての旅だから色々教えてくれる人が欲しかったんですぅー……」


美人が凄んだ視線の破壊力よ……もうすっかり私は半泣きだ。

きっと今の私はより一層子供に見えてるとに違いない……


「え?」

「はぁ~?」


ぽかーんとする白狼の牙と半泣きの私。

本日三度目の何ともいえない空気が流れたのだった。

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