第14話 和解

「……つまり、人数が多ければ手の空く者が出るから、簡単な指導をしてもらえるかもしれないと考えたと? それが下心という事か?」


半泣きの私から細々とした事を聞き出し、頭を抱えながらアレクがそう纏めてくれた。


「はい……」


尋ねられるままに答える内に、周りの空気も自分自身も徐々に落ち着いてきた。


そして涙が引いた代わりに襲ってくる激しい羞恥。

真っ赤な顔をして俯き、ただただ身を小さくして周りの反応を待つしかない、気分は判決待ちの囚人な私──




「……ぶふっ」


「ちょっ、もうだめ!! ぷぷーっ」

「マジかよ……く、くくくっ」


誰かが吹き出すと同時に一斉に大笑いされた。

今度は私がぽかーんとする番だった。



「いやぁ、悪ぃ悪ぃ。警戒MAXになってた所にまさかの答えでなぁ~? 堪えきれなったぜ」

「あんなに笑わなくても……」

「ふふ、リーン君ごめんなさいね?」


うう、ビータさんまで君付けだし……

でももう、あんな情けない姿晒した後で文句なんて言えない……

一応まだ十六という設定だし諦めよう……


大笑いされたかいもあって白狼の牙とは大分打ち解けた。私が物知らずな事が判ったので、本来なら常識的事柄でも詳しく説明してもらえるようになったので、私にとってはとてもよかったといえる。……うん、これでよかったんだ……めっちゃ恥ずかしい思いをしたけど……よかった、はずだ。そう思おう。

ううぅ……



さて、肝心の打ち合わせについて。


アレクから「この報酬額って事は徒歩で間違いないか?」と確認をとられた。意味が判らなかったので聞き返すと、理由を説明してくれた。


皆から聞いた話を纏めるとこうだ。


この世界の移動手段は、馬に騎乗、馬車、徒歩の三つ。これはファンタジーお馴染みなので特に不思議はない。


王都からカンエーまで馬を乗り潰す勢いで急いで走ってもギリギリ丸一日。

馬車で普通に行けば二日半。足の速い馬車で急げば二日で行けるかな?くらい。

基本的に馬車の速度は遅く、ほぼ徒歩と変わらないらしい。これはちょっと意外だった。乗り物に乗ってて徒歩と変わらないって日本では考えられない話だし。

なので徒歩と馬車の移動時間は休憩時間の差くらいしかないと聞いてもイマイチ納得できなかった。


私の納得云々はともかく、徒歩と馬車では時間的にはたいした差はなくても、疲労度は大きく違う。

一般的に依頼報酬は難易度が高いとか、手間がかかる等、大変な方が高くなる。

私が設定した報酬はたった一人護衛するには破格の額だという。

そんな高額で馬や馬車はないだろうから、徒歩移動で間違いないかという確認だったらしい。……なるほど。


知識としてファンタジー世界に車や電車がないであろう事は理解してた。

そして違う街までの移動が『旅』といえるくらいの距離なのも判っていたはずだった。

でもよく考えたら当たり前なのに、私の頭にその距離を徒歩で移動という意識は全くなかった。


旅といえば交通機関を使うのが当然で、散々自分でラノベだ、ファンタジーだ、なんて言いながら全く思いもしないとか、なんて都合いい頭なんだろう……おバカすぎる。


そうだよ、ラノベでだって、街を移動するのに乗り合い馬車探したりしてたじゃん!

そんな事、全然全く意識してなかったよ……買い物だけして旅の準備万端なつもりだった! 私のアホー!!


乗り合い馬車って専門の護衛いたりするよね? ひょっとして護衛依頼出したの丸々無駄だったりするんじゃ……


恐る恐る馬車で移動だとどうするのが一般的か聞いてみた。


「行商や仕入れで常に必要な商人なんかは買ってもいいだろうけど、普通は馬車屋で借りるんじゃないー?」


馬車屋? レンタカーみたいな感じなのかな?


詳しい説明を聞いてみると、レンタカーというよりレンタサイクルな感じ? レンタカーでもワンウェイのとこもあるけど、イメージ的にレンタサイクルのがしっくりくる。


まず、ある程度大きな街には必ず馬車屋の支店があり、そこでは馬単体でも馬車付きでも借りる事が出来る。馬車を借りる時は使用料の他に、持ち逃げ防止として保証金を払う。使用後は目的地近くの支店に返せばいいので片道利用が可能。馬車を返却すれば保証金は戻ってくる。

長距離や急ぎの時は、途中の馬車屋で馬だけ交換すればいいので、故障トラブルは少ないらしい。


心配だった乗り合い馬車は、巡回バス的な定期的に運行するものはなし。費用節約の為にシェアする相手を募集して乗り合いになる事はあるらしい。でもこれはこれでトラブルに巻き込まれたり問題があるのであまり一般的ではない感じ。



一先ず護衛依頼が無駄ではなかったと判ってホッとした。

そして乗り物慣れした現代日本人の私に、丸二日以上歩きづめ出来るかどうかという話になる。


うん、無理!

そんないいシステムがあるなら馬車借りるに限る。同行者が決まって必要そうな物もあるし。


皆には運びたい物ができたから荷馬車を借りると話し、移動自体は徒歩でお願いする。

私は依頼主特権で馬車乗車で楽チン移動。フフフン。

確認したら全員馭者も出来るらしいので新たに人を雇う必要もなしとの事。よかった!


話が纏まったので本日はこれで解散。

ジェイさんが馬車屋まで付き添ってくれるというので、受付のお姉さんに今日会えなかったソロの人に明日馬車屋前で待ち合わせの伝言をお願いしてから馬車の手配に向かった。

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