第15話 出発

異世界で迎える朝も四日目。

今日は寝坊できないので気合いを入れて起床しましたよ!


今日の朝食はいつもの塩スープに腸詰め、キラキラと祝福の付いた黒パン。

実はこの宿に泊まっている間、何故かずっと黒パンに祝福が付いていたので、私は黒パンの本来の堅さを知らずにいる。


イースト菌ではなく、サワードゥを使って作る黒パンは独特の酸味がある。不味いとは言わないけど、慣れない味+堅さのコンボだったらきっと嫌になってたと思うから、祝福してくれた精霊さん達に感謝。


うっかり食事の時に感謝の言葉を述べて皆の前で祝福が降ってきたら困るので、お礼は寝る前にこっそり言っている。

だって見るだけなら半数の人が瞳持ちらしいからね。目の前で派手に祝福降ってきたら目立っちゃう!


そしてお礼を欠かさないお陰か、精霊と繋がりが強い召喚者特典か、毎回ふかふかパンにありつけているという幸運を享受中。今日のパンも美味しいです。腸詰めの油っぽさと仄かな酸味が合う。

黒パンってドイツとかで食べられてたんだっけ? ドイツといえばソーセージ。うん、なるほど。わかるわかる。


三日間お世話になった宿屋とも今日でお別れ。忙しい時間帯なので、女将さんにお礼とお別れの言葉を一方的に声かけて宿を出たら、遠くから大声で返事が返ってきた。ふふ、女将さんらしいなあ。



「リーン君、おはよー!」

「おはようございます。遅くなりました」


待ち合わせ場所の馬車屋には既に全員が揃っていて、昨日会えなかったソロ冒険者とも無事合流。


「君が依頼主かな?ラークという。よろしく頼む。」

「リーンです。よろしくお願いします。もう白狼の牙の皆さんとは…」

「ああ、お互い挨拶は済ませておいた」

「わかりました。皆さんから話を聞いているかもしれませんが、護衛はここにいる六名。護衛対象は僕と荷馬車になります。徒歩移動でカンエーまで、という事で問題ありませんか?」

「問題ない」


ラークさんが頷いたのを確認してから馬車屋へ。昨日別料金を払ってお願いしておいた物が積み込まれた荷馬車を受け取り、いよいよ初めての異世界の旅へしゅっぱーつ!

白狼の牙の皆に交代で馭者をお願いして、自分は荷馬車の端に座る。


城からの追手がかかるかもとか、不安はまだあるけど、旅自体も王都の外に出るのも初めてのこの状況にちょっとワクワクもしてる。



馬車に揺られる事、数時間。

お昼も近くなったので最初の休憩。皆がてきぱきと馬の世話をしたりお湯を沸かしたりしてるのを横目に動けずにいる私。


馬車、めっっっっちゃ乗り心地悪いよ!!

道がちゃんと舗装されてないのもあるけど、凄い揺れる! お尻と腰が痛い!!

徒歩と変わらない速度でこれなら、確かにスピードなんて出せないわ。乗せてるのが荷物だけだとしても、揺れで荷崩れしそうだもん。


各自用意していたお昼を食べたら再び馬車の旅。乗せてた毛布をありったけ使ってお尻を 守るようにしたのでちょっと楽。午後にも一度休憩を挟んで、日が落ちる前に本日の野営予定地に到着した。

皆、大体同じような速度で移動するので、野営する場所も似たり寄ったり。何度も人が踏みしめて、馬車を停めるのにいい具合の空き地が出来ている。


アレクの説明では野営場所で数組の旅人と一緒になるのも珍しくないから、貴重品に気をつけるようにとの事だったけど、幸い今日は私達だけみたいだ。


「アレク、ジャックスさん、ちょっとお願い」

「うん? どうした?」

「……ねえ? リーン君、なんでアレクだけ呼び捨てなの?」


ちょっと一仕事お願いしようと二人を呼んだらビータさんに不思議そうに尋ねられた。


「え。だってアレクって呼べって言われたし?」

「は?」

「え、そういう解釈!?」

「ぷっ! 確かにそう言ってたよなぁ~? ぷぷっ」


皆はぽかーん。ジャックスさんが一人で大笑いしてる。


「くくくっ、俺もジャックスでいいぞぉ~?」

「クスッ、そうね。私もビータでいいわよ?」

「私も、私もー! セディナって呼んで!」


口々に皆が許可を出して、結局全員呼び捨てに。「ついでにその堅っ苦しい口調もやめちまぇ」と言われてため口にすることになった。


そこまではいいとして、ジャックスはちょっといつまでも笑いすぎだと思います!

お仕置きに背中をバシッと叩いたら、自分の手の方が痛かった! それを見て更に大笑いされたっていう……くそぅ。



気を取り直して二人に仕事の指示を出す。

まずジャックスには野営場所から視認できる、程々に離れた距離に穴を掘らせる。笑った罰だ、肉体労働に励みなさい。

アレクには周りの林からある程度の太さの枝を切りだして集めてもらう。

「生木だと薪にならないぞ?」と言われたけど、薪の為じゃないから大丈夫ですよ。


穴を掘り終えたジャックスに、アレクが集めた枝を穴の周りに打ち付けてもらう。

「なんか俺ばっかりキツくねえ?」とぼやかれたけど、うん、わざとだから大丈夫。問題ない。


出来上がったコの字型の簡易の柵に、手持ちのシーツを被せて目隠しの壁完成。

皆を呼んで説明をする。


「リーン君どうしたのー?」

「何だこれは?」

「トイレ用です。人目を気にして夜間に余り離れるのもよくないだろうし、女性もいるので目隠しに壁を作ってもらった。四方を壁で囲ってる訳じゃないから万が一の時にも逃げれるかなと思うんだけどどう?」


まあ、主に自分の為なんだけどね。暗い中離れるの怖い。


「まあ! 凄いわ、リーン君!」

「へえ。旅に慣れてないって話だったのに、よく考えたね」

「これは女性には嬉しいだろうな」

「うへえ。俺はこいつらの為に苦労させられたのかよぉ~?」

「何よ! なんか文句あんの!?」

「うわ、怖ぇぇ」


よしよし、一名を除いて好評のようだ。

お仕置きも出来てすっきり満足♪

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る