第84話 変化
──大変な事に気付いてしまいました。
切欠は何だったっけ?
ああ、そうだ。精神的にも疲れていたし、いつもより長めに湯船に浸かっていた。そして無意識にあちこちのコリを解すように指先に力を入れて擦り、マッサージしていて、ふと違和感を感じたのだった。
体の肉付きというか、手触りが違う。
いつもは汚れを洗い流すために表面を擦るだけだったから気付かなかった。
こうして肉を揉むようにして返ってくる弾力が、体の作りが、前とは違う違和感。
現代日本と違ってここは交通機関が発達していない。
王都程とは言えないけど、港を抱えるこの街だってかなりの大きさの都市で、端から端まで歩こうと思えば随分時間と労力が必要だ。普通はそんな距離歩こうなんて思わない。
各々の地区には街中用の馬車屋があり、一人か二人しか乗れない小さな馬車を馭者付きで借りる事ができる。この世界でのタクシーみたいなもんだろうか? 格安とまでは言わないけれど、料金も庶民がなんとか利用できる程度の値段だ。
だけど結局は、いくらバカ高い訳ではないとはいえ、毎日の通勤や買い物に利用できる程安くもなく、わざわざ馬車屋まで歩かなきゃいけない事もあって、普段の生活は徒歩移動できる範囲で済ませる事になる。
勿論、私も。
一日であちこち出かけず、今日はあの地区で買い物、明日はそっちの地区で買い物、といったように範囲を狭めて回数をこなす事になるのだ。
お陰で毎日のように沢山歩く事になって、歩く足にも、荷物を持つ腕にも、筋肉がつく事自体は何の不思議も無いことだった。
でも、それだけじゃない。
何かが違う。消す事のできない違和感。
そうしてその違和感の正体を探ろうと、注意深く体を見つめ直す事になって漸く変化に気がついた。
……体に女性らしさがなくなってきている。
いや、女性らしい体の象徴たる胸は、元々ほぼないのですが。ほんと悲しいほどに。
でも流石に、裸の状態でじっくり見たら男の胸ではないと判る程度の曲線はあった筈だ。
だからこそ布も巻いていたのだし。
でも、今の胸にはそれもいらないかもしれない。
お尻だってそうだ。
女性特有の丸みがあった筈だった。でも今の私のお尻は丸みが薄くなってきてる。
…………体が男性化してる?
いや、それともまた違う気がする。
あまり性を感じない。中性化してるのかもしれない。
なんとか自分の失ってない女性らしさを探そうとして、そして気付いてしまった。
嫌でも自分が女性だと実感する日が、ない。
この世界に来てもう半年以上が経った。
そもそも最初の旅の護衛として雇った白狼の牙に女性がいるのを知って、馬車に乗せたい物を思い付けたのは、ソレを心配しての事だった。
自分も護衛の女性も、急な出血で湯浴みや洗濯が必要になるかもしれない。
そう思って沢山の水を手配したのだ。
幸いな事に旅の間そういった目的で使われはしなかったけど。
その後、本来ならとっくに来てる筈のアレがない快適さと日々の忙しさですっかり忘れていたけれど、妊娠もなく半年以上も月のものがないなんて異常だ。
私の体は確実に女性らしさを失っていた。
外見も、機能的にも。
私は、私の体は、これからどうなるんだろう。
神様のようにどちらの性別にも寄せれるようになるのだろうか?
それとも性別を失ってしまうのだろうか?
どっちにしても普通じゃない。
どうなるのか判らないのが怖い。
神様を問い詰めたいけど、でもきっと何も教えてくれないだろう。
……神様、こんな変化どうやって自分で調べればいいっていうの?
温かなお湯に浸かっている筈なのに指先が冷たい。
冷えて震える指先で自分の体を抱き締めて、沸き上がる怖さを必死に耐えるしかなかった。
今日から男でがんばります 都忘れ @Gymnaster
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。今日から男でがんばりますの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます