拝読したのが序盤−中盤の辺りなので内容についての言及は避けますが、そんな駆け出し読者でも言いたいのが、ファンタジー作品の「ちょうどいい線」の参考になるのでオススメですよ、ということです。
服飾や食事、戦闘や社会制度とファンタジー作家が書きたいものは山程ありますし、どれも書かなすぎると作品の味付けが弱くなります。
しかし、調べたことや考えたことを書きすぎるのもご法度で、油断すると設定資料集や歴史の教科書のようになります。
そんな中で、本作は特に服飾や食事、魔法関係はこだわって書かれていますが、設定の熱意は感じつつも、決して鬱陶しくない読み味になっています。
どうにも作品が堅く・重くなり過ぎるという方に、ぜひご一読をお勧めします。
タイトルだけを見ると、女勇者と女装男子の巫女という出オチ作品と思うかもしれません。
しかし、この小説の面白さは緻密な世界設定にあります。
異世界ファンタジー作品を読むに当たっては、多少のツッコミどころは「そういうものなのだろう」とスルーするのがお約束といえるでしょう。そのモヤモヤ感が気になっていた人には、まさにおすすめの作品です。
現代日本と異世界の生活や習慣の違い、そこから生まれる文化の違いなど、本来はスルーすべきポイントに焦点を当てた話作りになっているので、納得して読み進めることができます。きっとこの話1本を生み出すまでに、膨大な時間と労力を必要としたことでしょう。
もちろん、膨大な世界設定はキャラクターの自然な行動の中で少しずつ披露されていくので、設定書だけ読まされているといった不快感はありません。
反面、読者を納得させるため、物語展開のテンポが少々遅めにはなっています。とにかく次々と事件が起こって、スピーディーに話が転がらないと面白くないと感じる向きには、盛り上がりに欠けるように思われるかもしれません。
しかし、ファンタジー世界のお約束に物足りなさを感じていた読者には、間違いなく「刺さる」と思います。
特筆したいのが食材の描写。食卓を彩る(あくまでこの世界での)美食の数々だけでなく、狩りの獲物の解体や保存法に触れるシーンもあり、食いしん坊読者なら読んでいてお腹が空くこと間違いなし!
まだ物語はやっと中盤といったところですが、これだけの設定を作り込む作者のこと。勇者が倒すべき敵がどういう存在なのか、といった明かされていない謎の答えもきちんと用意しているのではないでしょうか。
すべてが白日の下に晒された時のカタルシスを楽しみに、読み進めていきたいと思います。