第2話 対話

大勢の物音や囁きで満ちていた室内に、その声は思いの外響いてしまった。勇者を否定する私の言葉に一層ざわついた空気は、王様の咳払い一つですぐに静まった。


おおぉ、凄い! これが王族の威厳とかいうやつか!?

現在進行形で私に睨まれてるはずの王様っぽい人は、不敬だと怒る事も、不機嫌になる事もなく、視線を受け止め話しかけてきた。


「ふむ…勇者を否定するか。そもそも勇者とは召喚の儀に応じた最初の者が言い出した事での。

その後も歴代の者達も勇者の称号を望んだと記録にある」


うわぁ。自分から勇者と呼べって要求したとか、名誉欲とか英雄願望凄いな。そのハートの強さがある意味羨ましいけど真似したくないというか。



「私は勇者の名称を望みません。ですが、あなた達に対して信用もなく、状況も何一つわからないまま名を名乗りたくありません」


ここがどんな世界かわかんないけど、うっかり名乗って魔法やら呪いやらで縛られるとかまっぴら御免だし。

召喚なんてラノベみたいな事件に巻き込まれたんだから、その後もラノベ的危険性を回避しなきゃいけないと思うの!!

運のいい事に、いや召喚なんてされちゃったんだからよくはないのか? まあとにかく、ラノベはたくさん読んでて知識は豊富だ。

ラノベ展開回避に慎重になりすぎて困ることはないからね。


「……そうか、ならば客人と呼ぼう」

「はい、それでいいです」


そうして王様と文官さんっぽい人から今の状況の説明を受けた。

どうやら私は『召喚の儀』とかいう魔法かなんかで、ここアリエドー王国に呼び出されたようだ。魔法とか!! やっぱりファンタジー世界だ。


この世界には『地球』のような惑星としての名前は勿論、大陸の名前すらないらしい。

星の名前を聞いたら変な顔された。

アリエドー王国の他にも複数の国はあるそうだが、この世界の人々の認識では大きな一つの大陸と周りを囲む海、そして少しの小島が世界の全て。

だから大陸に名前をつけることなんてない。『島』か『大陸』で通じるのだから。他にも大陸があるかもとか、惑星が丸いとか考えもしないようだ。


でもよく考えれば、大昔は地球だって平面の大地だと思われていたし、そもそもここは異世界で魔法なんてものもあるファンタジーな場所だ。もしかしたら本当に平面なのかもしれない。

まあ、実際丸いか平面かなんて私には関係ない事だけど。


近隣の国や、王様の名前(やっぱり王冠の人は王様だった)、文官の名前とか興味ないので流し聞き。

今、私が聞きたいのは何故ここにいるのか、帰れるのかそれだけだ。

説明する側にも段取りがあるだろうと黙って聞いていたが、文官の「お客人が召喚の儀に応じてくださり」の言葉に一瞬でキレた。


「私はっ! 応じて来たのではありません! あなた達が勝手に私の意思を無視して強制的に連れて来たんでしょう!! 元の世界に帰して!」


先程まで冷静に大人しく話を聞いてたのが、いきなり喚きだした私に皆驚いてはいても、多分今までの召喚者も混乱して騒いだりしたのだろう、慣れた様子で「申し訳ない、言葉が悪かった」と謝罪してきて落ち着いたものだった。……ここまでは。


「私は親が……大病をしたので向かう所で無理やりここに連れてこられました。私の他に身寄りがないんです! 私を帰して!!」


そう、これが実家に戻る理由だった。

数年前に父を亡くし、他に付き合いのある親戚もいない。たった一人残された母の手術の付き添いのため。

病名や手術が云々言ったってどうせ伝わらないだろうから省いたけど、私の剣幕にさすがに周囲のおっさん達や、王様も文官もヤバイと感じたらしい。


気マズそうに目を反らし、言葉もない。

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