第3話
布団から起き上がる。泣き疲れていたからか、いつの間に寝てしまっていたらしい。
着ている服も、髪も。心さえも。全てがグチャグチャだった。でも、どこか気持ちが楽なのは泣いたからだろうか。
今日は月曜日だ。いつも通りに学校がある。疲れ果てた体が痛むが、無理矢理にでも起こすしかない。
ハンガーにかけずに置いてある、脱ぎっぱなしの制服に袖を通した。
隆哉兄と同じで髪はストレートだから、寝癖も直ぐに無くなる。朝が苦手な僕には、嬉しい事だ。
部屋を出る前に鏡ともう一度向き合う。紺色のネクタイをキュッと締める。疲れ果てた顔を除けば、いつもの自分だ。
「涼!遅刻するよ!!早く降りてきな!」
隆哉兄が下から叫んでいた。時計を見る。いつも家を出ている時間よりも、5分遅れていた。
慌てて鞄を手に取る。ドタドタと音をたてながら、階段を全力で降りた。
リビングにはエプロンを着て眼鏡をかけた、隆哉兄が居た。
「おはよう涼。体調は大丈夫??顔が死んでるけど......?」
「おはよ、隆哉兄。大丈夫だよ。昨日は迷惑かけて、ごめんね」
やはり、隆哉兄の隈は治るどころか余計に酷くなっていた。
「涼が迷惑かけるのは、いつもの事だから大丈夫。それより。お弁当、そこの机の上だからね。もう時間無いだろうから、食パンでも口に加えて、早く行った方がいいよ」
モップを片手に僕に言う。
「ありがとう!」
時計を見て、時間が過ぎていることを思い出した。
食卓にあった弁当を鞄に詰めて、牛乳を飲み干す。パンを口に加えたまま玄関を出る。バターの匂いが鼻いっぱいに広がる。
「ひってきふぁすー!」
モゴモゴしながら叫ぶ。口からパンが落ちそうになるのを、必死に食いしばってギリギリ抑えた。
「行ってらっしゃいー!気をつけてねー!」
隆哉兄の明るい声が僕の耳に届く。
駅までの距離を走りながら、胃に流し込む。
いつもは歩いてギリギリに駅に着く。だから、走らないと確実に電車に乗り遅れてしまう。次の電車に乗ったら、完全に遅刻だ。
一度だけ、30分以上寝坊をして授業の1時間目をやらなかったことがある。その時は、職員室に呼び出しをくらった。結局、2時間目もやらずに済んだ。内心は、とても飛び跳ねていた。だが、顔に出すわけにもいかずに心の中でガッツポーズをして我慢した。
電車のドアが閉まるギリギリで、乗り込むことが出来た。運良く席も空いていたので、座って息を整える。
横目で外を見る。太陽が明るく光り、電車の中まで光が差し込む。
立ちこぎをしながら、電車の後ろを追いかけてくる女子高校生がいるのを見つける。同じ高校の制服だった。このままだと、遅刻するだろう。
ボブくらいの長さの茶髪の髪が、風のせいでグシャグシャになっていた。前髪も割れていて、少し頬が赤くなっていた。
電車もスピードを上げた。その子はもう見えなくなった。
いつも通りの時間に到着した電車を降りて、改札を出る。周りを見渡す。いつも、建物の多さに驚くばかりだ。
僕の住む地区と学校のある地区では、建物の多さや大きさが天と地の差だ。
僕の地区は、田んぼばかりの田舎だ。でもここは県庁所在地だけあって、賑わいが全く違う。電車1本で繋がってはいるが、40分以上もかかる。
駅から歩いて15分程度にある学校に向かう同じ学校の生徒は、ほんの数人だ。大体が、1本前の時間に乗ってくる。
早歩きで歩けば朝会には間に合う。
学校の廊下は、いつも通り賑やかだった。朝会が始まる2分前に着いた。僕は、黒板の目の前にある自分の席にドスンと腰を下ろす。クラスも大体が揃っていた。
誰も僕が来たことに気づいていないみたいだ。僕からしても、そっちの方が楽だ。あまり目立ちたくない。
「涼、おはよう!いつも通り遅いね」
幼馴染の
「朝が苦手だから仕方ないだろ」
大輝の前だと、僕の顔の筋肉が緩んでいるのが分かる。
「そうだったな」
ちょうどチャイムが鳴った。大輝はケラケラ笑いながら、窓側の席に戻って行った。
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