第8話

 僕らは駅へと戻る。


 本当は、高井の意識が戻るまで居るつもりだった。




「申し訳ございませんが、もうすぐ美沙希さんのお母様が到着するそうです。時間も時間ですし、ご帰宅されてはいかがでしょうか?」


 そう、医者が話を持ち出してきた。中崎は、戸惑っている。


「えっ......。でも......」


「心配なのは分かりますが、あなた方の親御さんにもご心配をかけさせてしまいます。終電も近いですし、ここは私共に、任せていただけませんか?意識が戻り次第、ご連絡させて頂きますので......」


 腕時計を見る。もうすぐここを出ないと、終電を乗り遅れてしまう。


「中崎、終電の時間が迫ってるよ。行こう」


「わ、分かった......」


 中崎はあまり納得していない様子だ。しかし、終電に乗り遅れたら泊まる場所がなくなってしまう。病院に泊まったら、迷惑になるだけだろう。

 それを察したのか、医者にお辞儀をして先に行っていた僕たちの所まで小走りで来た。


 僕たちは病院を出た。



 空はより一層深く、暗くなっていた。三日月になっている月を、片目で見ながら歩く。


 隣には、大輝と中崎が居る。

 俯きながら歩く中崎には、いつもの明るさの欠片もなかった。

 大輝は、やはり遠くばかり見ていた。目線の先を追ってみると、大学生くらいだろうか。男女5人組で、腹を抱えて笑っていた。

 羨ましそうに見ているのか、不謹慎だと思ってみているのかは僕には分からない。でも、その瞳は冷えきっていた。色すらも、写していなかった。



「なぁ。涼......」


 ずっと黙っていたはずの、大輝が口を開いた。驚いて横を見る。


「えっ......。どうしたの......?」


「あのさ。ずっと考えてたんだけど、どうして高井は線路に落ちたんだ......?あの状況で、落ちる可能性はほぼ0に近いと思うんだけど......自分で落ちたか、誰かが突き落としたか、しか考えられないよな......?」


 確かにそうだ。確かに日頃からあの時間は混んでいるが、線路に落ちる程スペースがないわけではない。

 そうなると、大輝が言ったように高井本人が自分で落ちたか、誰かが突き落としたかという選択肢しかなくなってしまう。


「ち、違うっ......。美沙希は、自分から落ちたわけじゃないっ......!美沙希は......美沙希はっ......!」


 中崎が苦しそうに説明しようとした。でも、言葉が続かないようだ。少しパニックになっているのかもしれない。

 それもそうだ。目の前で友達が死にかけたのだから、パニックになっても仕方がない。


「中崎、落ち着いて......別に無理して話す必要は無いよ?後で、ゆっくり聞くから」


 言い出したことに責任を感じたのか、大輝が中崎にそっと言った。

 彼女の目から、また溢れ出てくる涙を僕には止めることが出来なかった。自分自身で、弱いと感じる。

 大輝が、中崎の背中を摩って慰めていた。


 やはり大輝は誰よりも凄いと思う。




 なぜ、彼女は線路に落ちてしまったのか。もしも、誰かが女を突き落としたのならそれは誰なのか。


 解決するまで眠れそうにない。

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