第16話
僕は柵へと駆け寄った。そして、恐る恐る下を見る。
「っ......。」
とっさに目を瞑る。僕の背筋が凍った。
彼女だ。薄暗くて、よくは見えなかったが、確かに彼女だ。
彼女は死んだのか......?この高さから飛び降りたら、生き残る可能性はほぼない。
僕は急いで彼女の元へと向かう。足が震えている。
本当は、行きたくない。けど僕は1度、前のときに後悔をしていたんだ。彼女を救えなくて、何も出来ずに立ち尽くしていただけで......。救うなら今しかないんだ。
2個飛ばしで階段を降りる。暗いから、何度も足を踏み外しそうになった。脇腹も痛い。
僕は、やっとの思いで彼女の元へとたどり着いた。
彼女は、裏庭に倒れていた。遠くから見ても、血の色がハッキリとしている。
保健室からすぐの所に裏庭があるのに、なぜ気づかなかったのだろう。保健室の窓から入るときに気づくはずだ。
いや、屋上からこの場所が見える。もしかしたら、僕が来るとわかって飛んだのか?
そんな疑問が頭をよぎる。しかし、流れ出る血は止まることを知らない。
僕はスマホを握りしめ、救急車を呼ぶ。やはり、僕の手は震えていた。10分くらいで着くそうだ。
「高井!!おい!しっかりしろ!!おい!」
僕は彼女の体を揺する。僕の手に付く赤黒い血は、生暖かい。この血が彼女のものだなんて思いたくもなかった。でも、信じるしかない。
「み、美沙希......?」
後ろから声がした。驚いて後ろを向く。
「美沙希なの......?ねぇ......」
そこには、中崎がいた。弱々しく聞こえる中崎の声は、僕を余計恐怖へと押しつけているみたいだ。
「ねぇ!!美沙希!!美沙希!!!」
僕の横へと駆け寄って、彼女の肩を激しく揺すった。中崎は手につく赤い血を、気になどしていなかった。
「美沙希......っ。ねぇ、美沙希......?お願い......返事をして......」
彼女のお腹の上に頭を置き、肩を震わせながら泣いていた。僕は何も言えずに、ただ見ていることしか出来なかった。
空を見上げる。月も星も全てが雲に覆われていた。
なんでなのだろうか。なんで、僕はこんな思いをしないといけないんだ。苦しくて、吐きそうだ。
「......っ。な、奈那......?」
彼女の血だらけの指が、ピクリと動いた。かすかに彼女の声が聞こえる。
僕は驚いて、彼女の顔を見る。
「美沙希......?良かった......良かった......!」
僕は安堵で、自分の体の力が抜けるのが分かる。中崎の目からは、大量の涙が雨のように流れ出ていた。
「な、奈那......。お願い......。りょ......涼くんと......話をさせて......っ」
彼女は、一言一言を必死に出していた。
中崎は頷いて、僕が彼女の顔の前に行けるように場所を開けた。
「り、涼くん......。君は......私の事覚えてる......?......っ。」
僕は首を横に振る。
今にも消えてしまいそうな声は、僕を苦しめる。
「そうだよね......。君にね......ど、どうしても......伝えたい......ことがあるの」
「美沙希......無理して喋んないで!ほ、ほんとに死んじゃうよ......」
中崎が涙を浮かべながら、必死に止める。でも、彼女は話し続ける。
「奈那......私はだっ......。大丈夫だから......」
「で、でも......」
「本当に......大丈夫だから......。涼く......ん。私から......お願いしてもいいかな......?耳......貸して......」
彼女の口に耳を近づけた。
「え......」
彼女は、必死に微笑んでいた。その笑みは、いつもと変わらない。
「私との約束......守ってくれるよね...?」
そう言って彼女は静かに、目を瞑った。
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