第9話

 僕たちは、終電ギリギリに乗ることができた。


 人身事故だったのに、ほぼ通常運転なのは駅の対応が良かったからだろうか。でも、何本かは遅れが出てしまったらしい。



 僕と大輝は同じ方面だが、中崎とは逆方面だった。どうやら、中崎も無事に乗ることが出来たようだ。

 時間も時間だったからか、電車に乗る人も少なかった。




 同じ車両には、酔っ払いの酒臭いおじさんが寝言を言いながら寝ていた。

 向かい合わせにいるサラリーマンらしき人は、イヤホンをつけながら寝ていた。イヤホンからは、音が少し漏れていた。今流行りの、バンドの曲のようだ。

 その中で2人だけ学生が居るのに、誰も気にする様子はなかった。気付かないふりをしているのか、分からない。まあ、こちらとしても面倒なことが省けてありがたい。いちいち、事情を説明するのは気が遠くなる。


 スマホの時計を見ると、12時を過ぎようとしていた。

 隆哉兄には、もうメールを送ったから大丈夫だと思うが、大輝の方は大丈夫なのだろうか。連絡しておいたから大丈夫、とは言っていたものの、大輝の家庭事情も複雑だ。


 大輝はスマホすら動かさずに、じっと窓から外を眺めていた。

 沈黙が続いた。僕らは話すことなく、ただ駅に着くのを待っていた。


 数時間前に、事故現場に遭遇したなんて嘘のようだ。


 窓から見える外は真っ暗だった。家に近づくにつれて建物も減り、畑が多くなっていく。

 いつも、見ているはずの景色がどこか違く見えるのはなぜだろうか。


「次は○○、○○。お出口は、右側です」


 車内放送が流れる。

 鞄を持って、電車を降りる。

 こんな時間に、こんな田舎の駅で僕ら以外の人が降りるわけもなかった。



 2人で並んで帰る。

 幼稚園からの幼馴染だけあって、家が近い。昔は親同士も仲が良くて、よく家を行き来したものだ。


 暗闇の中にある街灯に照らされて、2人の影が出来ていた。いつの間にか、伸びてしまった身長は、昔の自分からは想像がつかない。


「なぁ、涼。」


 またしても、大輝が沈黙を破った。


「何?」


「涼ってさ。本当に、涼なの......?」


「えっ......」


 何をいきなり言い出すのだろう。僕は僕であって、他の誰でもない。それとも、誰かに化けているとでも言いたいのか。


「前に聞こうと思っててさ。なんとなく、タイミングがなかったというか......。言いづらいしさ......」


 言いづらいも何も、僕は僕だ。


「えっ、なんで......?」


 ちょっと笑ってしまう。


「......。涼って......自分自身の記憶ないでしょ......?」


 どこか疑うその瞳と、視線が重なった。

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