第11話
「涼!それより、時間大丈夫なの!?」
スマホの時間は、家出る5分前になっていた。
「お弁当、そこの机の上に置いておいたから。ほら、食パン口に加えて、早く行きな!」
食パンからするバターの匂いは、いつ嗅いでもいい匂いだ。
「ひってきふぁすー!」
考えていても、仕方がない。僕は、また同じことを繰り返せばいいのだ。大して、大変なことではないはずだ。
駅まで走る。駅までのキツイ距離をまた走りたくはない。でも、そうしなければ色々とズレてしまう。遅刻でもしたら、先がどうなるかなんて予想もつかない。
前は急いでてそこまで気にしなかったが、相当な距離をダッシュしていたんだと思い知らされる。どこもかしこも痛い。
今日もまた、ギリギリで乗ることが出来た。いつもの席に座ろうと思って、空いているかを確認する。
えっ......
普段から空いていることが多い席には、先客がいた。
その事に驚いたわけではない。その先客という人が、本来ならこの場所に居ないはずの人だったのだ。
少し遠めの席に座り、もう一度顔を見る。バレないように、横目でじっと見た。
高井美沙希
彼女のことを、見間違えるはずがなかった。
本当なら、彼女はここにいないはずだ。なのになぜ......
電車が走り出した。外を見るが、誰も自転車をこいでいなかった。
当たり前か......彼女は今ここに居るのだから。白い肌は傷一つなかった。
寝ているのか、僕のことなど気づきもしなかった。
電車は到着時間ピッタリに着いた。電車を降りて改札を出る。周りを見渡しても、前の時と同じ人しかいなかった。ただ1人を除けば。
耳にイヤホンを付けて学校へと向かっていた。僕もその後に続く。やはり僕の影が薄いのか、全く気づく気配すらしない。
周りから見たらストーカー行為になりかねないので、大幅な距離は保つ。制服は同じ高校のものだから、絶対に疑われることはない。だが、僕自身がそうでもしないと落ち着かないのだ。
彼女は、どこにも寄らずに真っ直ぐ学校へと向かう。
その足はだんだん早歩きになっていた。
もしや、気づかれたのだろうか。いや、そんなはずはない。彼女は、電車で僕を目の前にしても気づかなかったのだ。気づいているわけではないと思う。
学校の校門を通り過ぎた。学校にある時計を見たら、朝会まで後4分だった。いつもよりも遅い時間だ。
僕と同じ時計を見ていた彼女は、いきなり歩くスピードを落とした。僕も合わせようかと迷った。でも、朝会に遅れては余計に狂ってしまうので、彼女の横を駆け足で通り過ぎた。
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