第5話

 昼休み、大輝と一緒に屋上のドアの前の階段でお弁当を広げていた。


 本と向き合ってるのがほとんどの僕に、友達と言う人が出来る訳もなかった。クラスの中心人物の大輝が気を使ってか知らないが、昼休みはここで食べるのが日常になっている。


「涼もさ、もっとクラスの中心に行けば仲良くなれんじゃないの??ほら、いつも寂しそうに本読んでるじゃん?だったら、話に混ざってくればいいのに......」


 いつも必ず1回は、こんなことを言ってくる。心配なのか、いつも一緒に食べるのが面倒なのかは知らない。でも、もし気を使って一緒に居てくれてるのなら、そんなことは言えない。


「余計なお世話だよ、それは。別に寂しいわけじゃないし、好きで読んでるから」


「涼は、硬いなぁ」


 苦笑いをして言った。



 ハッキリ言って、僕と大輝は真逆すぎる。それは僕が1番分かっている。大輝の方は全く気にしていないようだけれど......



 大輝は制服を少し崩し、髪もいい感じに乱れている。そして、なんと言っても男の僕をもドキドキさせる顔立ちだ。成績も良く、運動は学校一と噂される程の能力だ。

 モテないはずがない。ファンクラブも出来てるし、一日に何回も告白されているところを目撃する。他校も合わせると、何人になるのか分からない。

 おまけに、性格が良い。完璧すぎるから、普通はあまり近づきたくない。でも、幼馴染というのと友達と言えるのが大輝くらいしか居ない。だから、仕方ないことなのだ。



 それに比べ僕は、成績も普通。運動も得意なわけでもなく、苦手なわけでもない。制服も崩すのさえ面倒だ。髪もストレートだから、最初から崩すことすら出来ない。

 いわゆる、そこらへんに居るの男子高校生なのだ。女子に告白なんかされることもないし、付き合う気もない。


「そういえば、昼休みに数人の女子に呼び出しされてなかったっけ??」


 確か休み時間、女子に「昼休みに、体育館の裏に来てくれませんか?」とか言われていたのを覚えている。


「ああ、あれか。もう断ったよ。だってめんどくさいもん。昼休みくらいは、ゆっくりさせて欲しいよ」


 モテ男の悩みは、なんて羨ましいものなのだろうか。

 まあ僕はもっぱらモテる気など全くないのだから、問題ないのだけれども......

 意識高い系の奴らから言わせたら、1度くらいは言ってみたいセリフだろう。




「大輝。あ、あのさ。僕の後ろの席の、美沙希とか言うやつ知ってる??」


 僕は、ずっと疑問に思っていたことを、恐る恐る聞く。


「美沙希?あ、高井たかいの事か。知ってるよ。当たり前だろ?クラスメイトの顔と名前くらいは、ちゃんと分かるよ。ましては、あの顔を忘れるのは相当だよ。学年でも上位を争う美女だしな。しかも、涼の席の後ろじゃん!」


「そうだよね......」


 僕は影が薄いから、クラスメイトが覚えている確率は低い。けれど美沙希とか言うやつは、大輝が言う程の美少女だ。忘れる方がおかしい。


「涼ってさ......」


 大輝が言いかけた時にチャイムが鳴った。


「何?どうしたの??」


「あ、いや、なんでもない。大したことじゃないから」


 少し不自然に思った。しかし、次の授業が体育だった為、急いで片付けをして授業に向かった。



 結局、その後も何を話したかったのかは聞かされなかった。僕自身も、大した内容じゃないと思っていたからだろう。

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