第4話

 チャイムが鳴り終わるところで、前のドアが思い切り開く。


「おはよう!!」


 あの女の子だ。茶髪の髪が真っ直ぐ、綺麗に伸びていた。頬が赤くなっていて、前髪も割れずに揃っていた。教室に入る前に、整えてきたのだろうか。やけに綺麗だ。

 少し息を弾ませながら、僕の後ろの席に着く。

 後ろから挨拶をしてきた。


「涼くん、おはよう!」


 ドキッ


 太陽のような笑顔にと、少しトーンの高い声に僕の心臓が反応した。


「お、おはよう」


 曖昧に返事をして、体を前に戻す。


 彼女は誰だろうか。僕は彼女を知らない。名前すらも、覚えていない。

 クラスメイトには全く興味はない。でも、全員の名前と顔は一致する。ましては、後ろの席だ。忘れるなんてことは、無いはずだ。


 そんな疑問をよそに、朝会が終わった。チャイムが鳴る。


美沙希みさき!また、遅刻したね!」


 窓側の席から、中崎奈那なかさきななが叫びながら後ろの席の女の子に近づいて来る。

 この子は、美沙希と言うらしい。聞いた事のない名だ。もし、忘れたとしても少しはしっくり来るはずだ。


「うるさいなー、奈那は!いつもの事じゃん!」


「そうだけどさ。流石に直しなよ」


 2人は、ケラケラ笑ってクラスを出て行った。


 中崎は学年でも1、2を争う美少女だ。でも美沙希とか言う奴の方が、断然綺麗な顔をしていた。大きな瞳と、笑った時のえくぼが余計に愛嬌となっている。


 思い出しただけでも、心臓がバクバクいっている。

 心臓を落ち着かせるためにも、本へと目を落とす。


「明日」


 本の題名は未来を輝かしく見せるような気がするが、案外残酷な物語だ。





 病気を持った少女が、余命3年と宣告される。小さい頃から体が悪かったからもあって、外の世界を知らなかった。


「普通に生きたい」


 誰にも病気だということを言わずに、高校生として過ごす三年間。好きな人も出来て毎日が楽しかった。でも、どんなに生きたいと思ったとしても、結局その命は三年しかもたない。





 この物語は、バットエンドなのだ。


 どんなに、強く望んでも生きれない。夢は叶わない。そんな気がしてくる。

 この本を読むと胸が苦しくなるのだ。でも、何故か読むのを止められない。自分でも理由は分からない。手が勝手に動くのだ。


 図書館にあったこの本は、絵本と一緒に混ざっていた。端っこにあったからか、埃がたまっていた。




「マジで、あの俳優さんカッコイイよね!?」


「めっちゃ分かるー!!」


 1時間目のチャイムがなると同時に、中崎と美沙希とかいう奴が教室に小走りで戻ってきた。

 僕は咄嗟に本をしまう。

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