第13話

 その日は何も起こらずに終わった。

 完全下校のチャイムが鳴った。僕は、大輝の隣を歩く。前と変わらない会話に少し飽きたが、仕方のないことだ。


 もうすぐ駅に着く。僕は歩くスピードを上げた。

 このまま行くと、高井がもう一度死にかけることになる。


「涼?どうした?なんで、そんなに急いでるの??」


 ダイエットだよ、と言っておく。

 別に太ってるわけではないし、痩せている方だ。ただ、いちいち説明するのも面倒臭い。

 あまり納得してなさそうだが、大輝も僕にスピードを合わせた。


 電車が来る30分前に着いた僕は、ホームを見渡す。電車を待っている人もまだ少なく、高井もまだ来ていないようだ。ほっとして息を吐く。

 階段から高井たちが来てもいいように、階段から1番近い椅子に腰を下ろす。


「涼、今日どうしたの?なんか変だよ?」


 僕の隣に座った大輝が聞いてきた。確かに、傍から見たら変なやつだ。でも人の命が関わっているのだから、これくらいなんてことない。


「いつもの事だろ?」


 苦笑いして、この場を乗り切る。


 電車が来る10分前になった。まだ高井たちは来ない。何かあったのだろうか。

 階段の上から小さく、僕の学校の制服が見えた。階段を走って降りてくる。

 でも、なぜか1人しか走ってこない。あの2人はもう来ていい頃だ。

 不思議に思って顔をじっと見る。ショーヘア、黒髪で背が高い。アクティブで、整った顔立ちをしている。それは、1人しか居ない。


「中崎じゃん。中崎〜!!」


 横から大輝が、走ってきた中崎に手を振って声をかけた。中崎は、こっちに気づいて走ってくる。


「大輝と涼じゃん!どうした?てか、ほんとにあんたら仲良いよな。いつも一緒じゃん。いっその事、付き合っちゃえば?どうせ、大輝今フリーだし。涼なんてモテないだろ」


 大輝と違ってモテないのは知っているけど、直で言われると案外きつい。

 自分で言ってつぼにはまったのか、腹を抱えて笑っている。


「人のこと言えないだろ?中崎だって、今フリーじゃん。それこそ、美沙希と付き合えばいいのに。2人だって、いつも一緒にいるじゃん」


「ダメだよ。美沙希はね。今、心を寄せてる人がいるんだから私には入りようがないわ」


 そして、また笑う。どんだけツボが浅いのか......。


 時計を見ると、電車が来る5分前になった。人も随分多くなってきた。

 なのに、まだ高井は来ない。本来なら、中崎と一緒にいるはずだ。


「涼。すごい深刻そうな顔してるけど、どうしたの?」


 大輝が聞いてきたが、スルーして中崎に聞く。


「中崎......高井は?」


「えっ。スルーかよ......」


 横でボソボソ言っていたが、今はそれどころじゃない。

 中崎は、クスッと笑って話し始めた。


「美沙希はなんか用事あるから先帰ってって言って、どこか行ったよ?多分、大した用じゃないとは思うんだけど......。まあ美沙希のことだから、またどっかフラフラするんだろ。すぐどっか消えるからね、あいつは。ほんとに、迷惑だけはかけて欲しくないわ」


「そうそう。美沙希はすぐ消えるから、探すこっちが大変だよ」


 大輝も頷きながら言う。


 ちょうど電車が来た。探しに行こうか迷ったが、「あいつなら心配しなくても大丈夫だよ」と中崎が言ったから大丈夫なのだろう。

 僕と大輝は、電車に乗った。反対方面の中崎はまだ電車が来てないようだ。10分後くらいに電車が来るらしいから、僕らに手を振って見送ってくれた。


 電車の窓から見える空は、まだ薄暗かった。星はまだ見えないみたいだ。

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