第29話 恋愛関係
メールは1日どれくらいまでなら『大丈夫』なのか。
電話はいつが一番良いのか。
——
違う。
そんな女々しい考えは要らなくて。
私は自立して。
ひとりでも生きていけて。
だからこそ。
その上で、おにーさんと一緒になりたいんだから。
「ヤッたろ?」
「ごえええええっ」
新学期、開口一番これだ。
ほんと、何なんだろう。この子がエスパーなのか。私に問題があるのか。
「どうだった?」
「言わないよ。何もさっ」
「あーそ。でも良かったじゃん」
「うん。それは本当。ありがとうね。あんたにも色々相談乗って貰ったし」
「セックスひとつでこんなにお礼言われるとは」
「うるさいっ。それだけじゃないしっ」
私は学生だ。
来年卒業だ。
楽しみで仕方ない。
「その言い方。なに結婚でもすんのかって感じ」
「…………」
「は!? ほのかあんたマジで!? プロポーズされたの!?」
「ちょっ! 言って無いのにどうして分かんのよ——!」
——
楽しみで仕方ない。
家に帰る。
その時一瞬、隣を気にする。
相変わらず表札は無い。けど今は、本当に誰も居ない。
もう、鍵も持っていない。
私があのドアを開けることは無い。
「…………」
荷造りも手伝った。服……というか下着を畳んでいる時微妙な顔をされたけど。別に良いじゃない。もはや。
「…………」
作る食事はひとり分。買う食材もひとり分。
生活は確かに、以前に戻った。
だけど決定的に違う。
「……もしもし」
遠くに離れていても。私達は繋がっている。
「うん。うん。……それじゃ、来週遊びに行くから。……うん。大丈夫。うん。それじゃ」
また繋がれる。
「…………」
——
整理しようと思う。
この半年を。この1年を。この2年半を。
おにーさんに出会って。
ずっと、見ていただけで。
勇気を出して話し掛けて。
ご馳走すると持ち掛けて。
半ば強引に。
お弁当を作る約束をして。
デートして。失敗して。
勢いで告白して。
付き合えることになって。
デートして。手を繋いで。
キスして。
実家に呼んで。
お父さんに認めて貰って。
夏祭りに行って。
プロポーズを予約されて。
身体も結ばれて。
——
期間だけ見れば、『お弁当』からはトントン拍子に見えるけれど。そこには沢山の葛藤と、思いの交錯があった。沢山悩んだ。
間違いなく生涯最高の年だった。こんなにあついことは無かった。
「…………」
最近はずっと。家に帰って、ベッドに転がって。天井を眺めながらずっと思い耽っている。
もしかして全て夢じゃないだろうかと、たまに訳が分からなくなってスマホを確認して、おにーさんを見付けてほっとする。
おにーさんのことを考える。
ふたりのこれからとか。
今何してるかなとか。
次会ったら話すこととか。
月に1度会って。
ほぼ100%セックスするのは、はしたないだろうか。
いやいや。あはは。
——
ともかく。
色々あった。
沢山変わった。
椎橋さん、だった。
ほのかちゃん、になって。
今やほのか、だ。
私の敬語も、段々減ってきた。
もう多分、気分はお嫁さんだと思う。もう覚悟してる。一生、あの人と生きると。
全然構わない。どころか、大歓迎。いやいや、お願いだから一緒に居させて欲しい。
でも。
告白は私だし。
キスは……微妙だし。
エッチも私からだけど。
プロポーズだけは。
彼からだ。
別にどちらからでも良いのだけれど。
でも。嬉しくて。ひとりで舞い上がって。
「……おにーさん」
私も、下の名前で呼ぶべきだろうか。
今更。
もう随分と言い慣れてしまった。これだけは、付き合う前から。最初から『おにーさん』だった。
ちょっと今更で、恥ずかしいけれど。
悪戯っぽく。
今度言ってみようかな。
——
——
——
恋愛は。
「ほのか」
「おにーさんっ!!」
人生を。生活を。視界を。心を。色とりどりに染め上げて、艶やかに彩って、美しく煌めいて、華やかにしてくれる。
現実を——充実させてくれる。
「ようこそ。いや——お帰り、かな?」
「はいっ。よろしくお願いしますっ!」
確かに根底は。根本は。根源は、『生物』としての本能なのかもしれない。行き着く先としては、生殖があるのかもしれない。
だけど『それ』で人生豊かになるなら。
もう何でも良いじゃない。
「お花見っ! おにーさんほらほら、お花見の季節なんだからねっ!」
「よし行こう。この辺は『なんとか百景』に載るくらいの桜の名所らしい」
「腕が鳴ります。はぁぁぁぁあ」
「ドラゴンボールかよ」
私は、たまたまだ。
たまたま、隣の部屋に、良い人が居た。その人がたまたま、私と付き合ってくれた。
運だ。
だから私は一生、『恋愛』を理解することは無いと思う。振られる悲しみも。もっと苦しいことも。多分経験しないから。
奇跡だ。
「改めて」
春。
「大好きです。……——さん」
「!!」
私とあなたの道は、やっと今重なったから。
これから。
一緒に歩いていこう。
ふたりで恋愛しながら。
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