第37話 開拓惑星の経済改革
マゼラン計画が発表されると、名古屋で母船となる4隻の100m級の4本マストのスクーナー型機帆船の建造が開始された。最悪、無寄港で惑星を1周できる外洋仕様の船として、速度と沈み難さを重視した結果、燃料の積載量が増え、貨物の積載量そのものは戸田丸級とあまり変わらないものになっている。2隻一組で運用される予定である。第1次航海では、駿河市と同様に各地方で重点開発地域に指定されていた街を1年かけて巡って、国際情勢を確認する予定である。
他の既存の街でも、輸送力強化のために貨物船や旅客船が次々と造船されて、造船ブームとなっていった。
マゼラン計画の発表と時期を同じくして、長年懸案になっていた経済改革についても、いくつか実行した。
一つは、農業の自由化が実施された。主力の米や麦などの主食やアルコール燃料醸造用の穀物については、公営のままであるが、他の果物や野菜の露地栽培については、自由化が実施された。
もう一つは、民間企業の自由化である。公営企業による生産性の悪さが財政負担を重くしていたため、ある程度成熟している産業分野や公営企業で行っていない産業分野については、公営企業の民営化と、新規起業を自由化したのである。
これらの施策により、経済的な格差が発生する可能性があるが、基本的な穀物生産や他の公営事業を社会保障のセーフティーネットとすることになった。投資が必要な初期の開発では有効だった公的な計画経済が、経済の低迷を引き起こしていると判断されたためである。
経済の自由化は、復興事業をしている琉球市を直撃する結果となった。琉球市では、大和連合の中で、気候的に他の街と異なる作物を多く生産していた。米とサトウキビ以外の作物が、ほとんどすべて自由化の対象となったことで、復興のための開発支援を背景に、新たな耕作地の開発が進んで、自由化の対象となった作物の作付面積が2年で2倍以上になったのである。震災による経済的な被害は、震災から3年でほぼ解消されることとなった。
一方で、工場制手工業的に生産していた生活雑貨の分野などでは、高級品はともかく、一般向けの低価格商品については、大東亜連合からの輸入品の増大で、倒産する企業が増えてきている。これらの分野は、企業の自由化当初に大量に民間企業ができた分野である。最初のうちは景気が良かったのであるが、3年もすると、過当競争の末に、一部でブランド化で成功した企業や、大東亜連合への進出で成功した企業がある一方で、売り上げ不振で廃業する企業も多く発生したのである。
結局、経済の自由化開始4年で、企業の倒産に巻き込まれた人達や、経済の自由化の恩恵を受けられずに相対的に生活水準が低下した人達による支持率の低下で、私は、大和連合の議長の座を降りることになった。光あるところに闇あり。経済の自由化そのものはやる必要があってやったことである。機会の平等はあっても、結果の平等なんてものはない。刻々と変化する現在進行形の状況で、成功するのも失敗するのも、己の才覚と運次第なのだ。ちょっとした差が大きな結果の差になることも多い。すべての人に都合がいい政策なんてものはない。
新たな議長が選出された日に、六花だけは私に労いの言葉をかけてくれた。
「長いようで短かったけれど、お疲れさまでした。」
「もう少し続けていたかったが、改革というのは痛みを伴うものだ。実際、平均所得水準は上がっているし、所得の最頻値も改善されている。ただ、生活水準の上昇で、求められる生活水準そのものが変わってしまった。それをプラスとみるか、マイナスと見るかだろう。」
「一郎は、頑張ってきたじゃない。今の繁栄を築いたのは私達だと胸を張りなさい。」
「党の方も、このまま長老になられるのは邪魔らしい。」
「左遷人事で、次の仕事を斡旋されたの?」
「私達にとっては、左遷じゃないかもな。」
「いったい、何を斡旋されたの?」
「第1次マゼラン船団西部船団の団長に推薦された。ついて来てくれるかい。」
「あなた……もっと遠くに連れて行ってくれるのね。」
「昭和丸の試験航海が終わり次第、出発することになる。」
「党に感謝しなきゃね。」
一つの時代が終わり、新たな時代が始まる。
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