第31話 開拓惑星の神と信仰
秋の収穫祭で子供たちが家に帰ってきた。
長女の睦月がパートナーとして選んだ相手を連れてきた。清水長太郎といい、清水丸の船長をしている夫婦の長男だそうだ。
「船にかかわる仕事がしたくて、一番気が合ったのが彼だったんです。」
「戸田丸や清水丸の話をしている両親や叔父たちが楽しそうに見えたんです。漁船にも何度か乗せてもらったことがあるのですが、面白かったんです。実際には大変な仕事だということも聞いています。そういった話をできたのが睦月さんで、この娘となら一緒にやっていけそうと思ったので受け入れました。」
「水産コースで成績が優秀だって親御さんから聞いている。睦月のことをしっかり見てやってくれ。二人で互いに相手のことをよく見ていれば、仲良くやっていけるものだよ。」
「仲がいい子はいるけれど、僕のことを選んでくれるかどうかわからない。」と、長男の恵風がぼやく。
「同じ目標を持てて、一緒にいて楽しい相手じゃないと長くは続かないよ。相手をよく見て、よく会話することが大事だよ。一番大事なのは相手が嫌がっているようなら追い回さないこと。」と、意中の相手の見当がついている六花がアドバイスする。子供の交際関係を掌握している母親同士のネットワークには恐れ入る。
いつの間にかそういう年頃になったのかと時の流れを感じる。一緒に暮らしていないせいもあるが、子供の成長は速いものである。
読書好きな次女の弥生が、質問してきた。
「物語や歴史の本に出てくる神様って何?」
「恐れと力の象徴かな。」
子供からされる定番の質問なので、答えておく。
「恒星間播種船を派遣した母星では、科学が発展する前には、神という超常の存在があると信じられていて、それに祈ることで災害や不幸から回避できると信じられていたんだ。わからないものがあるというのが一番怖い。この世界がどのようにしてできたとか、世界の法則がどうなっているのか、そういったことが分からなくて不幸を回避できなかったから、神という存在を創作したんだよ。だから神は想像の産物で実際にいるわけではない。お話の中だけの存在だよ。後年になると、支配の象徴でもあった。支配者がどうしてその地位にいるのか説明するのに、神や宗教を使うようになったんだ。神を信じていた当時の人にとっては重要なことだったかもしれないが、そもそも神なんて存在しないうえに、支配する口実に使われた信仰なんてものは害でしかない。」
「物語の本に出てくる魔法って何?」
「無知と願望の象徴かな。」
久しぶりの末娘との会話を楽しむ。
「何かわからない現象が起きた時に、神の力とか魔法の力だとかで、説明していた時代があったんだよ。どうしてこんなことが起きるのだろう?こんなことができたらいいな。とか、そういった疑問や願望をかなえるために創作されたのが、魔法とか奇跡になる。後年科学が発達してくると、わからなかった現象が説明できるようになってきて、魔法を想定しなくても済むようになった。こんなことができたらいいなという夢は残っていたから、物語などの空想の世界では魔法がよく出てくる。」
「じゃあ、人が死んだらどうなるの?」
「人だけでなく、生き物が死んだら、死体が残るだけだよ。宗教では、人の意識とかいうものが肉体から離れて残ると主張することがあるけれど、実際には、歴史的な記録や、死んだ人を知っている人の思い出として残るだけなんだよ。だからお別れしたくなければ、しっかり覚えていてあげることが大切なんだよ。」
娘は納得していないようだが、神に祈ったところで何の解決にもならないってことは、いずれ理解するだろう。そもそも、この大地は、人間の英知でテラフォーミングしたものであって、神に用意された約束の地ではないのだ。
似たような話をするのは3度目だなと、年長の子供が幼かったころを思い出す。それとともに、私たちの子供を自分の孫のように可愛がってくれた長老夫妻の在りし日を懐かしく思い出していた。
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