第14話 開拓惑星の出会い

 遠く轟く重機の音で目が覚める。どうやら、そのまま長椅子で寝てしまったようである。一花を起こして、涙や涎で顔が悲惨なことになっていると指摘して、寝ぼけている彼女を彼女の部屋に誘導する。

 早朝に、外角の堤防の東側に複数のコンテナが着陸しており、コンテナで運び込まれた追加の資材とロボットにより、No.49-88-0002~9の宿舎や設備の設置が始まっていると、端末で確認した。ここもそんな風に設置されたのだと思うと、感慨深い。宿舎と井戸に関しては2週間ほどで完成予定で、追加人員の32名はその頃降下してくるようだ。全体の南東にあるNo.49-88-0006には、周辺探索チームの基地も作られるようだ。


 一花をリーダーにして睦月さんたちの部屋を準備する。掃除をした後に支給品の家具を持ち込んで設置し、空調や浴室などの設備の動作を確認する。雑貨と着替えの作業着を持ち込んで指定の場所に格納したら、あと下着と生理用品だけだからと言って食堂に追い出された。


 昨晩の彼女の態度が気になって、様子をうかがうと、「やるべきことはやっておかないとね。悩むのは後でできるでしょう。私は私で、あの子たちとは違うつもりだけれど、睦月を見る限り似た者同士であることも確かなので、やることはやっておかないとね。家族が増えるというだけで、あなたがいなくなるわけじゃない。」と、強がっているが寂しそうだった。「むしろ、あなたの方こそ甲斐性があるところを見せなさい。」と反撃されたので、しばらく放置しておくことにする。


 昼食の時に、歓迎用に冬に作ったパウンドケーキを用意したいと一花を用意したいと言い出したので、二人で30ホールほど作って冷蔵庫に保管した。


 夜になったら、オペレーターが睦月ではなく如月さんであることに戸惑いつつも、資材の到着状況と、設備の設置状況を報告しておく。如月さんは人懐っこい性格なようで、同じような見かけなのに一花や睦月さんとは受ける印象がだいぶ違う。報告後の雑談で、母船での睦月さんや、弥生さん、卯月さんの様子が語られると、調子に乗って一花にも似たようなところがあるとか言って話が盛り上がっていたら、終わったとたん、なんでばらすんだと説教されて、添い寝を要求された。


 翌日、通信があり、睦月さん達3人が乗った着陸船が到着したことを確認する。物資輸送用のロボットに指示して宿舎に彼女らを輸送するように指示する。宿舎の玄関で荷物を抱えた彼女らを出迎える。堅苦しい挨拶が終わった後、一花に彼女らをそれぞれの部屋に案内するように頼むと、待っていたかのように姦しく私を無視して会話の花が咲いた。

 仕方なく、歓迎パーティーの準備を一人で行う。準備が終わって、あたりが暗くなってもまだ荷物に腰かけて雑談していた。よくそんなに話すことがあるものだ。もう暗くなったことを指摘して移動を促す。母船が見えることを指摘すると、「もう、あそこには戻れないんだね」と、ショートヘアーの卯月さんが、つぶやく。母船での記憶があまりない私や一花と違い、母船のコロニーで今まで暮らしてきた3人にとっては感慨深いものがあったのだろう。


 お風呂に入ってきたいというので、歓迎パーティーは1時間後にした。歓迎パーティーのメニューは、ニジマスのムニエルをメインにサラダと、ペペロンチーノ風のパスタに、デザートに桃缶の桃とパウンドケーキと見栄えのするものではないが、材料と料理の腕による限界なので仕方ない。パスタの香りで、トウガラシの苗の植え付けをしなければならないことを思い出した。


 女性陣が食堂に入ってきたのを見て、目を瞠った。

「スカート姿なんて初めてだね。たまにはいいね。」

 最後に入ってきた女性が、茶目っ気を出して聞いてくる。

「さて誰が誰でしょう。」

 よく見ると、4人とも同じ服装で、ウィッグを使っているのか全員ポニーテールにしている。日焼けの仕方と筋肉の付き方から一花をあたりをつけて、右から2番目の女性を席までエスコートして「一花だよね?」と聞くとニコニコしている。特徴的な姿勢の良さであたりをつけて、一番右の女性を席までエスコートして「睦月だよね?」と聞くとニコニコしている。足の太さでなんとなく、3番目に入ってきた女性を席までエスコートして「卯月さんだよね?」と聞くとニコニコしている。最後に残ったいたずらっ子を席までエスコートして「弥生さんだよね?」と聞くとニコニコしている。「正解は?」と聞くと女性陣が、「やっぱり、わかっちゃうんだ。」と笑い出す。ウィッグを外してしまうとわかりやすくなる。ショートヘアの卯月さんと、セミロングの弥生さん、二人の中間ぐらいの睦月に、そのままにしている一花が憮然としている。一花が種明かししろと聞いてくる。

「1年先に地上に降りているし毎日肉体労働しているせいか、一花は日焼けの度合いが多少強いし、スタイルが一番いいんだよ。睦月は、オペレーターとして通信してた時にも思っていたけれど、背筋がピンとしていて姿勢が一番いい。卯月さんと弥生さんは、失礼だけれど足の太さでなんとなく、卯月さん、立ち仕事が多いでしょ?」

「日焼け……」と、一花が不満そうに何やらぶつぶつ言っている。

「一花を間違えたら、本人からのクレームがすごいことになっていただろうから、合っていて良かったよ。でも、一人だけ黙って立っていると間違えるかもしれないから、もう少し分かりやすくしてくれると助かる。」


 弥生さんが真面目な顔をして、「いつでも、誰が誰だかわかるぐらい私たちを見ていてくれたら、家族としていい関係になれるんじゃないかな。一花さんや睦月さんが言うような人なら安心です。」と言ってにっこりと笑う。何とか最初の洗礼は合格だったようだ。


 4人が会話しているのを見ていると性格はだいぶ違うようだ。寂しがり屋で猪突猛進なところがある一花、気配り上手で平等に話題を振っている睦月、快活でいたずらっ子な弥生さんに、豪快さと繊細さがころころと変わるような態度を見せる卯月さんと、睦月がよく言っていることだが、見かけは似ていても中身は違う。どんな関係が築けるのか楽しみだ。

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