第15話 開拓惑星に降りた一花

 一花は、弥生さんと卯月さんに話題を振られて、地表に降下してからの1年を振り返った。


「開拓地No.49-89-0001とNo.49-89-0002では、苦労と失敗ばかりだった。降下してから雑貨倉庫から必要なものを出そうとしたら、棚が崩れて足の踏み場がない状態だった。片づけるのに1週間もかかった。何とか生活環境を整えてから、農作業を始めようとしたら、故障している機械が多くて泣けてきた。」

私は、最初の一週間はロボットや機械のメンテナンスで忙しかったのを思い出す。

「確かに、自動運転していた重機の足回りに摩耗が多かったなあ。うちの場合は、優先度が高いものから、午前中に整備して、午後に農作業をするような感じで作業していた。一巡してからは暑さ対策でメンテナンスを午後にやるようにしている。そんなに酷かったのかい?」

「土壌の問題で石が多くて自動運転期間の負荷が大きかったみたい。メンテナンス作業に集中していたら、オペレーターの名古屋芳春に農作業の方はどうなっているんだって指摘されて、機械はいつでもできるが、農作業にはやらなければならない時期があるって叱られたの。カチンときて毎日のようにオペレーターと喧嘩してた。」

「一花は、何かをやり始めたら一直線に猪突猛進するところがあるからなあ。一花らしい話だ。喧嘩するなんて、指示する方にも問題があったんじゃないか。うまく軌道修正してあげれば、一途で真面目で働きものなんだからさ。睦月は指示が適切だったし、相談すると適切な回答があったので助かった。」

顔を赤らめながら睦月が反論する。

「それは、一郎さんが、適切に報告してくれていたからよ。問題になりそうなことを予測して事前に報告してくれていたから、本格的に問題になる前にアドバイスできた。おかげで、同僚達は時間に余裕があって友達と過ごす時間があったようだけれど、まともに雑談できる相手が一郎さんぐらいしかいなくなるぐらいには忙しかった。だけれど、いずれ地上に降下すれば会えなくなる同僚より、パートナーになる一郎さん方が大事だと割り切ってからは仕事が楽しくなった。だから、一花が一郎のところに押しかけたときにパニックを起こして、周囲を説得して自分も一郎のそばにいられるようにするので必死だった。ま、その影響で、こうして同系統の4姉妹でパートナーになることになるとは思わなかったわ。」

「私も、睦月との会話を楽しみにしていたところがあるからお互い様だよ。弥生さんはメカに強いって言ってたよね。今は別の作業があるだろうけれど、機械も増えたし、時間を作って、相談に乗てくれると助かる。資料を参照できるようにしておくから、読んでおいてね。」

弥生さんがうなづくと、一花が話を続ける。

「農作業の方もうまくいかなくてね。そこそこ育ったのは蕎麦ぐらいだった。土地が痩せてたんだと思う。半ば自棄になっていたところで、洪水で水田を流されて、畑の方も蕎麦以外全滅で、オペレーターと喧嘩したままだったけれど、さすがに仕事だけはしてくれて、その年は捨ててNo.49-89-0002で再起を図ることになった。でも、オペレーターと喧嘩している状態に耐えられなくなって、周辺の開拓地の現地担当者のメールアドレスを調べて、窮状を訴えて相談をお願いしたの。返事をいくつかもらえたけれど、みんな自分の苦労自慢ばっかりだった。一つだけ違ったのが一郎からの返事で、感激して頼ってしまった。冗談で無視したら押しかけてやるってメールしたら、本当に押し掛けるはめになったんだけれどね。」

あの時は大変だったねと、辛そうに睦月が話を続ける。

「ちょうど、そのぐらいの時期から、入植した人が事故や天災で亡くなる人が多くなってね。少しでも地上のことをよく知っている人を現地に送るということで、パートナーを失ったオペレーターを改組して地上に降下させることが多くなった。名古屋芳春さんも、2回目の水害で一花が死亡判定されたときに、降下チームに異動になった。オペレーターをしていた卯月さんのパートナーが亡くなったのもその頃だったね。弥生さんは、もともとNo.49-88-0001への入植候補だったのだけれど、冬になって降下チームにメカ担当の男性が必要になってパートナーが異動して降下中の事故で亡くなってしまった。それで、二人のカウンセリングも担当していたの。雑談のネタに一郎のことをよく話したから、睦月がしていることは知っていると思ってくれた方がいいかもね。一郎がいろいろ仕事を作ってくれたから、二人にも手伝ってもらうようになってね、結果としてこうなったの。一花さんのことがなければ、こうして4人で一郎と暮らすこともなかったでしょう。」

一花がちょっと怒って反論する。

「私のせいにしないでよ。2回目の水害で、あたり一面水没して心細くなった時には、親身に相談を受けてくれた一郎しか頼れるものがなかったんだよ。こうやって生き残ってここにいられるのも、一郎に相談して事前に準備できていたからだよ。」

当時の一花の余裕のなさを様子を思い出す。

「一花がここに来た時には驚いたね。自分以外の人はいないはずなのに、食堂に何かがいて柿を貪っていたからな。一花だとわかった時には、どうしたらよいかわからなかった。でも、私も寂しかったんだろうね。一度受け入れてしまったら、彼女に捕まえられたって感じがした。睦月が独占欲丸出しにしてくれたから、冷静になれたところがある。やることは沢山あったから、意図的に彼女にも仕事を積んで忙しくさせていたところがある。気持ち的に余裕でできたし、仕事が捗るようになったので一花には感謝している。」

「そうそう、一郎は優しいけれど、頼りすぎると厳しい。」


この後、床に正座させられて睦月に説教された。一途なところは、一花と睦月はよく似ている。歓迎パーティーの夜はこうして更けていった。

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