第27話 開拓惑星の産業事情
かつて人工衛星からの探査で作成された地図や海図をもとに、海岸から一定の距離を保って、開拓地No.49-87-0001があった場所を目指した。駿河市を出港してから南下し、湾の幅が狭くなりクレーターの外輪山の切れ目になっている海峡を越えてから、半島を迂回して北上していった。比較的波が穏やかな駿河湾から外海に出ると、波の周期と高さが変わったように感じられる。目視で海岸の地形を確認していることもあって、船の速度は遅い。出航して翌日の朝には、いつも北に見ている富士山を海上から西側に仰ぎ見た。さすがに遠くまで来たものだと感じる。その日の夕方には、目的地の沖合2kmに到着し、停泊した。港周辺に明かりがあることで、ひとまず安心した。
翌日、地元の漁船が十重二十重に遠巻きにする中、ボートを下ろして、後のことを船長に任せて六花とともに港に向かった。遠巻きにしている漁船は、大半が近海用の15m級以下の小型なものだが、数だけは200艘以上ある。見物人の中から警備員と思われる人物を捕まえて、港の責任者に入港の手続きを依頼するとともに、街の代表者に会談を申し込んだ。
対応してくれた街の職員によると、開拓地No.49-87-0001だった開拓地は、現在、仙台市と名乗っているそうだ。人口は3万人、漁業が産業の中心だそうだ。
「駿河市で市長補佐をしている駿河一郎と駿河六花です。六花の父が市長で駿河一樹で、その代理として、周辺の街の調査と交易の可能性について調査しに来ました。街同士の友好関係を築ければと思っています。」
「仙台市の市長の仙台睦月です。隣が副市長の伊達幸四郎です。お互いに何か得られるものがあればいいですね。」
「駿河市は、ここから南西に450kmほどのところにある街で、人口13万人ほどになります。今回は、繊維製品、酒類、調味料類など交易した場合に提供可能な産物をいくつか持ってきました。あと、駿河市で流行している文物もありますので、こちらで流行している文物を教えていただけたら、ありがたいです。」
「繊維製品や調味料類は不足がちなので、興味があります。食糧事情の関係で水産業が中心の街ですが、交易が可能なのであれば、近隣に有望な鉱脈が発見されていますので、将来的に鉄や銅などの鉱物資源の提供が可能になるでしょう。」
「鉱物資源はいいですね。駿河市は人口が多いこともあって金属需要が多いので、鉱石のままでも提供していただけるとありがたいです。穀物などの農産物についても余裕がある物が多いので、条件が合えば提供可能です。」
数日に及んだ話し合いの結果、仙台市としては、今後、鉱業開発を推進するので、繊維製品や食料品、燃料などで先行投資して欲しいということだった。今回は、とりあえず、持ってきた交易品の半数を提供し、その見返りに乾物に加工された水産物と、鉄や銅などのインゴットを取得した。投資案件とも絡んで、今後の交換比率などについては、さらなる交渉が必要になるだろう。
産業というのはネットワークである。一部が欠けただけでも発達はできない。原料の流通、加工工場の連携、製品の物流と市場の連携、各種技術の連携、どれも単独のピースでは成り立たないパズルのようなものだ。この開拓惑星でIT技術が過去のものとなったのも、IT技術が必要とする半導体産業が原料不足で構築できなかったからだ。今後、鉱物資源の流通がうまくいかなければ、産業革命以前の文明水準にまで逆戻りする可能性もある。逆に言うと、資源の流通がうまくいけば、必要な知識だけはあるので、恒星間播種船を建造した当時の母星の文明水準を100年もあれば構築できるだろう。
仙台市を出航後、開拓地No.49-86-0001に行ってから、駿河市に帰港することを伝えると、伊達幸四郎夫妻が代表者として便乗することになった。
仙台市を出港してから3日、開拓地No.49-86-0001があった場所を目指した。途中で漁に出ていたと思われる30m級の漁船が近づいていた。その船は、冷蔵設備がある遠洋漁業用の船であるようだ。交易目的で訪問する途中だと伝えると、函館市と名前を変えた街の港に案内された。
函館市は、人口5万人で、港を中心とする町に2万人、畑作と畜産を主な産業とする町が周囲に複数分散しており3万人が住んでいるそうだ。
「駿河市で市長補佐をしている駿河一郎と駿河六花です。六花の父が市長で駿河一樹で、その代理として、周辺の街の調査と交易の可能性について調査しに来ました。街同士の友好関係を気づければと思っています。あちらが、途中で訪問した仙台市の関係者になります。」
「仙台市の副市長で伊達幸四郎と伊達睦月になります。友好関係を結べたらと思っています。」
「函館市の市長で、札幌漁一です。うちの産業は、漁業もやっているが、メインは畜産と畑作です。互いに利がある関係を築きたいですな。」
「畜産が盛んだと聞きましたが、羊毛や皮革、チーズやハムなどの加工品に余裕がありますか?」
「うちのものはなかなかのものだと思いますよ。あとでお試しください。」
「こちらには絹や木綿、麻などの植物系の繊維製品と、酒類、調味料類などを提供可能です。」
話し合いの結果、交易の進展にもよるが、定期的に交易船を運用しようという話になった。函館市の方でも、将来的には大型船を用意して独自に船を運用したいそうだ。お互いに苦手としている産物を補えるようなので、人と物の交流が進む可能性がある。函館市の代表として副市長の十勝一途夫妻を招待した。途中、仙台市に寄港し函館市の交易品と余った羊毛製品を降ろして追加の交易品を積んだ後、駿河市に向けて出航した。
駿河湾が見えてきたときには、最初に駿河市を出港してから1ヶ月が経っていた。その海域で新たな出会いが待っていた。
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