第20話 開拓惑星のフォトフレーム
夏の野菜の収穫が終わり、畑には一部種取り用の株を残して、撤去や鋤きこみが進んで空き地が目立つようになっている。水田には、頭を垂らしている早生種の稲穂が目立つようになってきた。夜間の涼しさに誘われるように蕎麦が小さな白い花を咲かせ始めている。このまま大きな水害が発生しなければいいのにと思う。
昨年回収して乾燥している流木でフォトフレームと掲示板を、作った。さすがに一人で作ると大変なので、興味ありそうに様子をうかがっていた弥生を誘って、手伝わさせる。 最初に、比較的大きな木材を使って、大型の掲示板を作る。食事会で使っている広場に設置したい。次にA2判ほどの掲示板を世帯数分だけ作って、各世帯に配っておこう。余った素材でB5判ほどのフォトフレームを10枚ほど作った。
これらを作ったのは、壁に磁石で張り付けている掲示物がさすがに無視できなくなってきたからだ。既存の張り紙を外して、掲示板を設置して、必要な張り紙だけ張りなおしていく。お食事会のたびに掲示物が増えていっているが、わずか半年足らずの間に増えた掲示物が時の流れを物語っている。最後に掲示板の真ん中に全員集合した大きな集合写真を張り出しておく。期待半分、不安半分の表情が懐かしい。各世帯に配布する分は、次のお食事会の時に希望者が持って帰るように全員にメールした。一つは、うちの食堂に持っていって設置して、掲示物を整理する。掲示板の隣に、幼い5人の写真と、ここで5人そろった時の写真をそれぞれフォトフレームに入れて飾りなおした。残りは、一花、睦月、弥生、卯月に2つづつ配った。
作業を手伝ってくれた労いを兼ねて、その日の夜は弥生と過ごすことにした。彼女の部屋に行くと、フォトフレームに、お食事会の準備なのか4姉妹で料理しているときの写真と、いつ撮ったのか二人で散歩しているときの写真が飾られていた。
「今日は、ありがとう。お疲れさまでした。」
「仕事だと、点検と修理ばっかりだから、何かを作るのって新鮮だった。また誘ってね。」
「まあ、流木なら、まだ材料がいっぱいあるから、作る余裕はあるよ。」
弥生は、次に何を作ろうかと相談しつつ、その夜は終始ニコニコしていた。たまにはこんな時間を過ごすのもいいものだ。
早生種の米の収穫が終わった頃に、夕食後、一花に呼ばれたので、彼女の部屋に行った。サイドテーブルの上にフォトフレームが置かれていて、一花に私が泣かされている幼い頃の写真と、一花がここに来たばかりの頃に一花が私に抱き着いている写真が飾られていた。フォトフレームの前に柿が置かれていた。
「私がここに来てから、もう一年になるのね。」と、柿の皮を剥いて、お茶を出しながら言う。
「あれから、二人で暮らして、仲間が増えて、喧嘩もしたし、いろいろあったね。」
「だから、二人で柿を食べたかったの。」
「熟して柔らかくなった柿もいいけれど、まだ新しいパキパキとした柿もいいね。」
「雨が降っている夜には、もう少し一緒にいてほしい。」
「まだ、辛くなることがあるのかい。一緒にいてあげる。」
しばらくこのままでいてと、抱きついてきた彼女を気が済むまでそのままにしてあげた。女の子は笑顔の方がいい。
翌日、卯月と一緒に夕食の準備をしながら、フォトフレームをどう使っているのか聞いてみた。
「みんなとの写真を飾っています。どんな写真かは今度部屋に来るときまで秘密。」
「そうだ。せっかくだから次の料理教室でやる料理のレシピを私の部屋で一緒に考えてくれる?」
ここに来てから料理の楽しみを知って、仕事柄か栄養のバランスとか、味のバランスとか、そういった視点からもアドバイスがもらえることもあって、私は彼女と料理をするのを楽しみにしているところがある。最近は盛り付け方にもこだわりが出てきている。
後で見せてもらった写真には、私と二人で料理する写真と、5人で料理している写真だった。彼女らしい選択といえる。
事務所の睦月の机の上を見たら、母船でオペレーターの制服を着た睦月と私が握手している写真をフォトフレームにいれて飾っていた。
「オペレーター姿の凛とした睦月さんもかわいいね。駿河如月さんとはやっぱり感じが違う。」
いつの間にか、写真と同じように顔を赤らめた睦月が、じろじろ見ないでと照れる。
「すっかり作業着姿の睦月を見慣れてしまったから、懐かしいのと、オペレーターとして初めてあった頃の初々しさが可愛かっただけだよ。」
「今は違うというの? 今夜はじっくり話し合いましょう。」と睨まれた。
その夜、自分がいかに苦労しているのか説教された後で、もっと現在の私を見てと甘えられた。彼女の個室には、ここに来た時の彼女と私の写真が飾られていた。
後日、お食事会で弥生がフォトフレームを仲間に自慢したらしく、何十もの作成依頼を受けて、一緒に作ってくれと泣きつかれた。その様子が可愛かったから協力した。何より、仲間に飾っておきたいほどの思い出ができていたことの方が嬉しい。
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