第17話 開拓惑星の塩とエネルギー事情
開拓地を拡大していくうえで問題となるのは、塩とエネルギーをいかに確保するかである。塩ならば海から海水をくみ上げて作ればよいというのは簡単だが、そのためにはエネルギーが必要なのだ。
開拓地No.49-88-0001~9の合計での想定最大人口は現在2万人にまで拡張されている。一人当たり一日10g消費すると全体で0.2t消費されることになる。これに各プラントで工業的に使用する分と食料の保存に使用するものとを追加すると毎日1.2t程度の塩を消費することになる。この近海の海水の塩分濃度が約3%なので、海水1lから塩約30g取得できるので、毎日8万l程度の海水を処理する必要がある。実際には濃縮に太陽光を利用している工程が冬場に効率が下がることもあって、夏場には4系統のプラントで2系統づつ交互に運転して毎日25mプール1つ分程度の海水を処理している。製塩の方式としては、太陽炉、または電力を熱源として、蓄熱装置に熱を蓄え、その熱を利用して減圧状態で海水を低温沸騰させて濃縮する方法をとっている。エネルギー効率からいうとイオン交換膜による逆浸透圧を利用した方法が良いが、イオン交換膜の供給が将来的に継続できないので、採用されていない。
製塩プラントは開拓地No.49-88-0002の南側半分を占める広大な施設である。その隣の開拓地No.49-88-0006の南側半分に関連倉庫と工業プラントが設置されている。開拓地No.49-88-0003には、発酵プラントが設置され、アルコール醸造、醤油や味噌などの発酵食品の生産施設が追加された。今回の入植時に新規に追加設置されてものである。開拓地No.49-88-0001にも小規模な実証用プラントがあるが、将来のことを考えて大規模に本格運用するプラントを設置したのである。
当然、プラントの規模に応じて消費電力も大きく、太陽炉による火力発電が行われている。宿舎などについては予備電源として太陽光パネルが設置されているが、大気圏内の屋外では10年程度で太陽光パネルの交換が必要になることと、太陽光パネルを製造可能なプラントを維持可能なインフラが地上にはまだないため、メイン電源にはなっていない。別系統でバイオ燃料による火力発電もあるが、燃料が十分に確保できていないので、開拓地No.49-88-0001で小規模のものが稼働しているのみになっている。
私たちの開拓地は、先行して人員が増員したので、各種プラントの実証試験の役割も与えられている。2年間の運用で問題なければ、各地に設置される予定だ。弥生をリーダーとして、その他16名が農作業との兼業でプラントを運用している。
夕食後、睦月と弥生に愚痴を言う。
「人員が増えて、多少は楽になると思ったけれど、さらに忙しくなったな。」
「こうなっても対応できると判断されたから、先行して増員されたんです。塩が自給できるようになって、在庫を気にせずに、自由に使えるようになっただけでも違うでしょう。他の作物もそうだしね。やっただけ生活は豊かになっているはずです。」と睦月が励ます。
「余裕はできたとはいえ、生活の基盤は、まだNo.49-88-0001の実証プラントです。私の方で引き取った作業も多いですけれど、手伝ってもらわないと困ります。」と弥生が釘を刺す。
食事の後片付けが終わった一花と卯月が会話に加わる。
「20年以上の長期計画になるけれど、仕事が楽になる方法があるよ。物が十分にあるなら、人を増やせばいい。そのためのパートナーでしょう?」と卯月。
「20年後かあ。だいぶ先だねえ。ここもだいぶ変わっていそうだな。」
「仲間も家族も増えるんでしょうね。でも、一郎はさらに忙しくなるんじゃないかな。」と卯月が続ける。
「そうね。とりあえず、一郎はもっと私たちと仲良くすべきだと思うのだよ。」と一花が意味ありげに私を見る。
「せっかくパートナーと一緒にこうして住んでいるのに、ちょっと放置しすぎじゃないかな?」と睦月が他の3人とうなづきあって、説教モードになっていく。
「忙しいといっても、仕事は、お互いに手伝っているよねえ。プライベートの方も頑張って欲しいのよ。」と一花が後を継ぐ。
愚痴を聞いてもらおうと思ったら、愚痴を聞かされることになり、その日は遅くまで家族会議が続いた。どうしてこうなった。
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