第4話 開拓惑星の雨上がり
雨露が光る水田の稲を横目に、本日の作業は水路の点検と掃除である。
雨が降ると、畑から多少なりとも土砂が流出する。川から開拓地につながる水路や、開拓地から川につながる水路が土砂に埋まることもある。早めに点検した対処の必要性を判断する必要がある。日ごろからのこまめなメンテナンスが重要だ。
開拓地の水利は、開拓地の西側を流れる川からの取水と、井戸からの汲み上げである。 川からの取水は、主に農業用水である。川からの水路から取水して、開拓地の北端にある100m四方ほどの溜池に受水して、各所に分配し、使いきれなかった水や使用済みの水を開拓地の南端にある100m四方ほどの溜池に集めてから排水している。
井戸は、風力と太陽光発電による電力で水を汲み上げており、濾過して飲料用にするほか、淡水魚の養殖用に使っている。生活用水は浄化したうえで、養殖用に使った水はそのまま、排水側の溜池に水を捨てている。
養殖しているのは品種改良された陸封種のマス科の魚や、母星から運び込んだ鮒や鯉など数種である。加工して冷凍保存するにも限界がある上に、既に1000人以上の食卓を賄えるだけの量を養殖しているので、過剰分は排水側の溜池に放流され、一部は水とともに外部に排出されているようである。それでも、海や川にどんな生物がいるのか確認できていない現状では、食用にできる魚は、これらの養殖した魚だけである。
開拓地の北に出かけていき、取水側の水路を点検する。幸いにも土砂の流入は少なかったようである。冬場に水路から土砂を浚渫すれは何とかなるだろう。問題は川からの分岐点に溜まった流木である。写真を撮ったうえで、作業予定を入れておく。木材のうち利用可能なものは貴重な資源だ。乾燥させて、いずれは利用したい。
取水側の溜池から用水路をたどって、順次点検していく。今回は、水路に土砂が流出していないようで、胸をなでおろす。
ついでに田圃を見てみれば、稲が膝丈まで伸びてきている。早播きの大豆が緑色の鞘を大きく膨らませてきている、鞘に生えた毛に雨露が丸くついて光っている。そろそろ時期を見て一部は枝豆として収穫できるだろう。茹でた枝豆が楽しみだ。
昼食後、開拓地の南に行き、排水側の水路を点検する。川の水位が下がったおかげか、溜池からの排水路の水位が下がってきている。開拓地内は問題がなさそうだ。堤防を越えて、川への排水用の水路を確認する。困ったことに川との合流点に取水側と同様に流木が転がっている。同様に写真を撮ったうえで、作業予定を入れておく。
帰り際に耳をすますと、水路でバシャバシャと音を発てて何か生物の気配がする。近寄ってみると、体長が1m近い鯉が、低くなった水位にもがいているようだ。養殖水槽にはここまで大きなものはいないので、過剰分として放流されたものの生き残りである可能性がある。
生物発見時のマニュアルに従って、捕獲して調査することにする。急いで宿舎に戻って、櫤と計測用具をとってきた。鯉もこのサイズになると通常は捕まえるのは難しい。水位が下がっていたおかげで弱っていたのか、櫤で捕獲することができた。体長は85cm、重さ6kg、年齢が20歳以上であるようだ。開拓地の開発が始まって放流が始まったのは、どんなに遡っても10年以上前であることはあり得ない。この鯉はどこから来たのであろうか?可能性としては養殖種ではなく、テラフォーミングの生物放流期に放流されたものの子孫である可能性がある。そうでなければ年齢が説明できない。画像と取得したデータをネットワークにアップしておく。
これまでも昆虫の類は、いくつか確認できていたが、これほどの大きさの生物が長期にわたって生育していた記録はない。開拓地の外に何が生育しているのか楽しみになるとともに、何らかの害獣も存在しているのではないかと、不安にある。
夕食後、レポートを作成してから、他の開拓地での生物遭遇記録を検索してみる。分かったことは、まだデータが公開されていないということだ。まあ、計画では、周囲の生物の調査は人員が増加した後の3年後以降に予定されているので、仕方がないことかもしれない。安全保障の意味で、情報を公開すべきではないかと憤りを覚える。もっとも、各開拓地に原則一人しかいない状況で、パニックを引き起こしたりするほうが問題かもしれない。
気分転換に、ネットワーク上で公開されているハンティングゲームを1時間ほど楽しんだ。考えてみれば、この手のゲームが公開されているということは、何らかの戦闘をすることも想定されているのかもしれない。実際、母船からの許可がなければ開封できないそれらしき開かずのロッカーもある。先行して一人で生活しているのも、病気や害獣に対するモルモットであると考えることもできる。そういう可能性を考えないように教育されていたのだろう。頭が痛くなってくる。
ともかく、これから晴天が続けば、収穫や加工、次の作付で忙しくなることは確実だ。母船から持ってきた保存食は確実に消費して減ってきているので、現地のプラントで生産された保存食に徐々に切り替えてきている。雨が止むように気分を切り替えることは難しいが、ストライキを起こしても自虐になってしまうだけだ。それなら、収穫した食料は余っているのだから、贅沢に食べたいものを食べたいように加工して食べたほうがいい。
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