カラーコードライフロード

Planet_Rana

#1. White

 ある日、世界から色が逃げ出した。


 色を失くした世界は真っ白になって、争いも確執も無くなった。

 ある日、白い空を見て僕は思った。


 どうして僕は、僕の姿を見つけられるのだろうか。足元に、薄く灰色の影があるのか。


 僕は灰色の影の間を進んで、其処に黒い人を見つけた。

 黒い人は、僕に「他の色を探しておいで」と言う。


 僕は色を探した。


 赤い人は情熱的で怒りっぽい。けれど単純だったから色を貰うことが出来た。

 青い人は大人びて冷たい。僕が来るまで散々待ったと怒られながら色を貰った。

 黄色い人はお茶らけていて子供の姿。僕に色を渡すと短い脚で逃げていった。

 緑の人は美しい。付いていきたかったけど振られてしまって、泣く泣く色を貰った。

 紫の人は双子の人。渋々と赤に近い色と、青に近い色の両方を貰った。

 橙の人は元気な人。話が通じなくて時間がかかったけれど、色を貰うことが出来た。


 沢山の色に包まれて、僕の輪郭はキラキラ虹色。だけど、僕に色が付く事は無かった。


 どうしてだろう。


 黒い人の元に帰ると、黒い人は僕と同じぐらいの背丈になって立っていた。

 おかえり、白い人。色は集められたかい。


 白い色は、僕だった。


 黒い人は語り出す。沢山の色が溢れるあまりに、白が忘れ去られてしまった世界の話。


 白い僕が怒って塗りつぶした世界は、僕一人で維持できる形では無かったこと。

 黒が僕を支えるように、白は黒を支えなければならないということ。

 沢山の色が混ざってできた黒は、色を元に戻すと白をかき消してしまうということ。

 沢山の光が混ざってできた白は、黒が生きるには眩しすぎるということ。

 そして、人に必要なのはその両方だということ。


 白い僕は考えて、それから答えを出した。


 それならば僕は元の場所に帰ろう。人が白を思い出すまで眠っていよう。


 僕は集めた色を、黒に手渡した。



 色が戻った世界。世界は灰色で、空には分厚い雲がかかっている。

 虹色の風景の中に純粋な白は無い。

 けれども、人の目に色が映る限り、光がそこにある限り、白は確かにそこに居る。


 白を忘れた世界に、僕が戻って来るまであと少し。

 待っててね。



 その夜。灰色の世界を押しつぶす黒の中、白い月が降った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る