#3. 浅葱色
シャンシャンと鈴が鳴る。リンリンと音がする。
青なのか緑なのかよく分からない私は、赤い花をしたトナカイのモニュメントを前にして一人立ちすくんでいた。世間はクリスマス。ブルーな色の外套がお店のキラキラしたディスプレイに反射して緑色になる。背中半分は夜の影に溶けて青い色だった。
どうせなら、赤や黄のようなお祭り気分になれる色が似合えば良かったのだけど。
ゆるゆると首振ると、もこもこしたファー付きフードがうなじをくすぐったので首を竦め、トナカイにかかる影は焦げ茶色に戻った。
おもちゃ屋さんの前で何をしているんだと聞かれても、何をするつもりもないと答える他ない。私は誰と待ち合わせている訳でも、誰を探している訳でもないからだ。
クリスマスに特にこれと言った予定を入れていなかっただけである。誰と過ごす予定も、何かをして過ごす予定も何も無かった。だから一人この街をぶらぶらと意味も無く歩いてきたのだ。小さい頃お世話になった商店街、美容室、八百屋さんに薬屋さん。何処へ行っても夜になってしまえばシャッターが下りてしまって、錆びついたクリーム色の波が影を落としている。
夜までふらつくとは思わなかったから、私はこの浅葱色の薄いコート一枚しか着ていない。私は北風に身を縮めながら、ディスプレイのガラスに反射する自分の姿を見て、照らされた緑みの青色に目を細め、ここに赤と黄色のオーナメント、白いウールにLEDがあれば最高のクリスマスツリーになれるのになあと思う。
思い返してみれば、色の抜けた古いプラスチックのモミの木は、浅葱の様に色が抜けるのだ。このようなイベントを避けてきた私は、今着ているコートの様に色あせてしまったのだろうか。クリスマスに予定が入らない程忙しかったあのころから、クリスマスに予定が入らない程付き合いが苦手になってしまった今日。ぴゅう、と突風が吹いて、ファー付きフードがばさりと揺れた。そろそろ家に帰らないと不味いかもしれない。踵を返して、街を行く。
「ここに居たのか!」
「わんっ」
振り向いて一声上げる。
首元のファー付きフードがもふもふと上下した。
「心配したんだぞー、朝から脱走しやがって」
「わんわんっ」
ねえ。覚えてる? 今日は貴方と出会った三年目なんだよ。
この商店街のこのおもちゃ屋さんの前で、私は貴方の家族になったんだ。
夜の商店街に小型犬の声が響く。鈴の音は暫く止まなかった。
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