#18. Ivory


 紅を塗って、色を足す。


 化粧なんて生まれてこの方したこともされたこともなかったものだから、お店で何を選んだら良いかなんて分かる訳も無く、どれが自分の肌に合うかなんて肌ノリが良いかなんてどうでも良くて、まずは化粧水だ、乳液だ、それ以前に肌荒れを直そう、それじゃあ洗顔料からだ、洗顔料ったっかい!!? 何でこんな小さなチューブ一本でそんなにするんだこのやろう、貯金も少ないんだぞ、これからスーツを格安で揃えて革の靴を買って、それから必要なのは――オフィスカジュアル!? なんだその新ジャンルは! 金はいくらあっても足りやしない、だとすればこの化粧に掛けられる予算だってたかが知れている。


 パフを用意してライナーを用意してハサミと鏡を買って、肌の調子を整えつつスキンケアとして洗顔料と化粧水と乳液を普段使いして、朝は早く起きて鏡の前で睫毛を押し上げて眉書いて産毛剃って、腕も足も脱毛しに行く余裕なんてないからカミソリで剃って。ええ? 脂取り紙? 持ってないよ! 代用品はティッシュだよ! それよりもまずファンデーションだ。テスターを手の甲に塗りたくって商品を比較……って顔の肌色とちゃうやん! 手の甲の方が白いからより白い色を選んでる私が居る! そもそもどの程度の色を選べば。そう、肌と同じ色か近い色。ね。


 分かったよ引きこもりに近い生活して来たの認めるから! 自分の肌が白っぽいのも知ってるから! これでいこう! よし、これに合わせてアイシャドウと口紅を買って――。


 購入した色はアイボリー。

 私はそうして無事にリキッドファンデを買い忘れ、きたる日に粉を吹くことになるのだが、それはまた、面接の後のお話。

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