#7. 藤色

「君はきれいな色をしているね!」


 私に声をかけた彼は、無邪気な顔でそう言った。


「ひとりなの? じゃあ僕と一緒に遊ぼうよ!」


 ボール蹴りがいい? ブランコがいい? それとも縄跳び? かけっこ?

 聞いてきた彼に、私は首を横に振る。


「一人が好きなの?」


 そういうわけではない。私は首を横に振る。


「僕と遊んでくれないの?」


 遊んであげない。


「そうかぁ。ちぇっ。残念」


 あともうちょっとだったのに!

 無邪気に怒る少年の目から、機嫌の悪さが見て取れた。


 それにしても。あともうちょっと、ねえ。

 あともう少し、手が届く位置にいてくれたら、遊べるのにねえ。



「――心の色を見分けられる、藤の下のムラサキさん、綾子さん知ってます?」


「ええ、知ってるわよ」


 思い出しながら、カフェテラスで後輩の問いに答える。


「木の上から降りてこられなかった男の子の話でしょう?」


 もうちょっとで、遊べたのにね。残念。

 私は、ブランドバッグに忍ばせたお札を、おもむろに指でもてあそんだ。

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