#8. Navy
お気に入りのジーンズに、カッタ―の刃を入れた。
切り裂いて引き裂いて、別のものにしてしまおうと思った。
縫い目を解くのは時間がかかるから、パーツに分けて金属を取り除いて、あの青い布だけにして、何か作れないものかと模索した。
鞄にするには古びている。
ペンケースにするには時代遅れ。
栞にするには固い。
そも、何故このジーンズを解体する必要があったのかと言うと、タンスに物が入らなくなってきたからである。
内股に毛玉をこさえたこのズボンを、誰かにあげようなんて考えは浮かばないので、すっかり寝巻の仲間入りを果たしていたこのよれたジーンズパンツの使い道は他に無いものかと、考えながら解体を進める。
穴の開いた部分は見るに耐えない。
白い糸を引く、伸縮性のある青い生地の、色の抜けていない部分を仕分けて見ると、成程生地は全体を通して白く摩耗していて、無事だったのは足首部分位のものだった。
仕分けた自分で言うのもなんだが、あまり布は取れそうにない。
結局、何にしたいとか、何を作りたいとか考えていたら夜になったので、針仕事は別の日に持ち越すことになった。
明日だってバイトがあるし、その次の日は学校がある。
いつか、この布を何か形に出来る日が来るだろうと信じて、今日は箱の中にしまい込んだ。
明日の母がガラにも無く私の部屋を掃除して、箱ごとその生地を処分してしまっていたことを知るのは、今日から二年後の話だが――「せめてその前に」と、タイムマシンを冬の空に走らせて私はやって来た。
私は眠っている二年後の私が片付けた、生地を一枚抜き取ってタイムマシンに乗り込む。
何に使うのかって?
えへへ。実は、これを私にくれた人に、呪いをかける野暮用が出来たんだ。
冬の冷たい空は、ネイビーの様にほのかに青かった。
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