#14. Mandarin orange


 境界線上に淡々と灯るその色色を、果たして明かりとみなすべきか、ただの色彩と捉えるべきか、私には判断が付きようも無かった。


 行燈が笑い、行者が叫ぶ。

 囃子が始まれば、踊る、狂う、舞散り、憂う。


 その瞳は何色だ。そのまなこは何色だ。

 粛々と進む儀礼の中に、残る感情はどんな匂いだ。

 香ばしいと顔を背けると、視界が宙に浮くような世界である。


 残念ながら此処の辺りの住人でない私は、この行列に少々飽いていた。


「とりーとめんと! とりーとめんとですよ!」

「それは髪に塗る奴だ」

「ふえ、それじゃあ、それじゃあ、とりっくあーととりーと!」

「私は絵を描くアーティストとは違う」

「えええええ、だって、だって」

「だってじゃない」

「とりっくあーととりーとめんと!!!!!」

「それ最早何物でもないな」


 何が謝肉祭だ。この町ではただのお祭りに過ぎない。

 菓子が手元にないフリーターにとって、この町は賑やかすぎる。

 毎年毎年、貰えもしない菓子の為に、悪戯の為に、子供が一人やって来る。


「毎度毎度お邪魔してくれちまって、お前、毎年何ももらえないって分かってて嫌がらせに来るのってさ、脳味噌チョコレートでできてるんじゃないの」

「嫌がらせ!? 嫌がらせじゃないもん」

「ん? へー」

「変なこと言ってると悪戯するぞ!」

「ちっ、ぶれねえなおい……」

「ぶれるってなに!?」


 欲望に従順な子供は甲高い悲鳴をあげる。


「はあ」

「何溜め息ついてくれちゃってるんですか」

「いや、菓子は無い。ほれ、この通り」

「じゃあ悪戯デス」

「意味深な言葉遊びは辞めなさい」

「観念するデス」

「……ココア淹れてやろうと思ったんだが」

「観念したです! 下さい!」

「はあ」

「だから、何溜め息ついてくれちゃってるんですか!?」


 霧深い竹林の奥。

 一人暮らしの小さな小屋に、年のイベントがあるごとに顔を出す子供。

 かぼちゃ色のマントに、黒い瞳。

 真っ白の服に、天使のわっか。


 フリーターは子供を、空の迷い子と呼ぶ。

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