第十五葉 つながり 

 里山は、白川を見つめて言った。

「白川さん、あなたのお話はよく分かりました。私は、最初に独立開業をお勧めしないと言いました。これは、本当のことです。私の元には独立開業したいという人がよく尋ねてきます。しかし、それは大手の下請けとして集客を請け負う約束をあらかじめ締結している人であったり、薬局や接骨院などの介護保険以外の母体事業と抱き合わせで利益率を高めたいと考えている人であることが多いのです。そのような目的で独立開業されることは、サービス利用者にとっても好ましくありませんし、社会システムのあり方としても望ましいことではありません。だから、私は、己の欲得で独立開業を考えている人に対しては、どなたに対しても、儲からないから止めなさいと言います。」

 里山は、振り返って月影を見た。月影は、にっこりほほえんで頷いた。里山は続けた。

「しかし、白川さんは、違います。あなたは、ケアマネジャーとして正しい仕事がしたい、たとえそれが自分に不利益なことであっても、誇りにかけて守りたいことがある。だから、独立開業が必要なのですね。」

「はい。」

「私たちは、そのようなお志で独立開業する人を歓迎します。開業に必要な情報を積極的に提供し、準備を支援します。あなたは、私たちのなかまです。私たちは、あなたを必要としています。」

白川は、しばらく呆気にとられた。

「えっ、それは・・・・・・?」

白川は、振り返って月影を見た。月影は、にっこりほほえんで頷いた。

「そう、これからは、わたしたちは、なかまですよ。」

「あ、そうそう・・・・・・、」

里山が付け加えた。

「誤解があってはいけないので一応補足しますが、私は、いまのケアマネジメント報酬の水準がそのままでよいと思っているわけではありません。仕事の中身に見合った大幅な引き上げが必要だと考えてます。それを実現するためにも、志を同じくするなかまが増えるのはうれしいことです。これから、どうぞよろしくお願いいたします。」

里山は手を差し出した。白川はそれを両手で握りしめた。

「やっぱり、今日ここにきて正解でした。これでやっと、自分がどこに向かって歩んでいけばよいか、はっきりしました。こちらこそ、どうぞよろしくお願いいたします。」

「では、せっかくお越しいただいたことですし、お時間があるようでしたら、早速技術的なところから順を追ってお話しましょう。まず、法人登記の手順から・・・・・・。」

里山は、このような日が来るときに備えてあらかじめ作成していた事業所開設マニュアルを本棚から取り出し、説明を始めた。

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