第十一葉 出版交渉
里山が遠路を押して望月の元に現れたのには理由があった。タン師の発案により、文学作品を通して「ほんとうのケアマネジメント」を広めるためである。里山と望月は、かねてより目をつけていた小さな出版社に足を運んだ。
「ごめんください。本日の午前十時で面談の予約をとらせていただいた者で、里山と申します。こちらは共同執筆者の望月です。」
「望月と申します。よろしくお願いいたします。」
二人は、面接室に通された。しばらくして、編集長と名乗る気むずかしそうな年配の女性が現れた。
「原稿は、だいたい読ませていただきました。」
編集長は、里山と望月の顔を何度も繰り返して見た。表情は険しく、何かを一生懸命考えているようであった。
「・・・・・・、なんだかよくわからないけど、おもしろそうなので話しだけきいてみるわ。」
「よろしくおねがいします。」
「まず、タイトルなんだけど、『ぴょこぽんっ!』てどういう意味なの?」
「それは、『とことん』という意味です。とことんケアマネジメントについて掘り下げようという趣旨でありまして・・・・・・。」
「なら、『とことん!』じゃだめなの? すなおに『とことん!』で・・・・・・。」
「ええっと、それじゃぁ、うさぎとたぬきが書いているという特色をうまく表現できないのではないかと・・・・・・。」
編集長は、突然声を荒げた。
「そこっ、そこなのよ! あなたたちがケアマネジメントについて掘り下げたいと思っていることは、原稿を読んでまぁまぁわかったわ。だけど、なんでうさぎとたぬきなの? うさぎとたぬきでなければならない必然性が分からないのよ、さっぱりわからないの。すなおに人間で出したらどうなの?」
望月は、冷静に答えた。
「ご疑念は、ごもっともだと思います。」
里山は、熱っぽく説明を続けた。
「事前にお手紙でご説明申し上げたとおり、わたくしたちは、表向きはミラクル・ヒューマノイド・スーツを着ているので人間に見えますが、中身はうさぎとたぬきです。誤解を恐れず社会学的に言えば、人間社会に参与観察法を用いて介入し、特にケアマネジメント領域における当事者間の力動的諸関係の全体的把握を・・・・・・。」
編集長は、両手で頭を抱え込んだ。
「あの、うさぎさん? あなた、この人、というか、このたぬきさんがいま言っていることについて、なにかコメントはある?」
望月は、冷静に答えた。
「ご疑念はごもっともだと・・・・・・。ミラクル・ヒューマノイド・スーツというのは、平たく言えば人間の着ぐるみのようなもので・・・・・・。」
「もういいっ、わかったわ! うさぎかたぬきかとか、タイトルのことは後でどうとでもなるから、とりあえず中身に入りましょう、中身に・・・・・・。あたし、もうこの時点で少し疲れてるかもしれないわ・・・・・・。」
その後、話し合いは三時間余りに及んだ。里山と望月の熱意が通じたのか、編集長は、編集会議の場でより突き詰めて検討することを約束してくれた。里山と望月は、別れ際に、自分たちの正体は、絶対に誰にも言わないでほしいと編集長に伝えた。編集長は、きっぱりと答えた。
「言うわけないでしょ、いろんな意味で・・・・・・。」
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