第16話 電子書籍の立ち位置

 まず、電子書籍の利用状況について。


 MMD研究所「電子書籍の購入先、一作ずつ購入の1位は「Kindle」、定額制の読み放題サービス1位は「dマガジン」」

(https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1732.html)より


 ――以下抜粋。


 ■ 電子書籍の利用経験は44.7% 男性は51.0%と半数以上に


 ■ 利用したことがある電子書籍の種類、多い順に「事業者配信の無料書籍」(69.0%)、「一作ずつ購入する有料書籍」(44.6%)、「個人がアップロードした無料書籍」(23.9%)、「読み放題サービスの有料書籍」(12.0%)


 ■ 電子書籍を利用した理由、1位「場所を取らないから」(44.1%)、2位「安く買えたり、無料で読めたりするから」(41.5%)、3位「持ち運びが楽だから」(38.0%)


 ■ 電子書籍の購入先、一作ずつ購入の1位は「Kindle」、定額制の読み放題サービス1位は「dマガジン」


 ――以上。



 ちなみに、これは『2018年8月17日から21日の期間で、全国の男女2,093人を対象』とした調査になります。


 一見するとそれなりの人が利用しているように見えますが、「現在利用している」と答えた人は全体の『23.7%』という結果も出ており、決して利用率は高いとは言えません。


 公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所の発表では、


『2018年の出版市場規模は紙+電子で3.2%減の1兆5,400億円、紙は5.7%減、電子は11.9%増』

『紙市場は5.7%減の1兆2,921億円 書籍は2.3%減、雑誌は9.4%減』

『電子市場は11.9%増の2,479億円 コミック14.8%増、書籍10.7%増、雑誌9.8%減』

(https://www.ajpea.or.jp/information/20190125/index.html)より


 とそれぞれ報告しています。


 まだまだ紙よりも市場が小さい事が伺えますね。


『昨年(2016年)9月、東京国際ブックフェア内で行われたイベントで、ブックウォーカーの安本洋一社長は「電子出版の割合は、KADOKAWAではまだ10%いくかいかないか。大ヒットした映画『君の名は。』の小説は100万部、関連書籍は200万部以上売れたが(※9月時点)、デジタルの割合は5~6%だ」と明かした。落ち込んだとはいえ、やはり紙の割合が大きいのは確かだ。(IT media ビジネスオンライン「なぜ電子出版は軽視されるのか」(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1701/18/news056_2.html)より)』


 という記事もありました。



 しかし、注意しなければならない事もあります。


 上記の数字は「『出版月報』2019年1月号」に記載されている数字なのですが、出版月報には『』と明記されているのです。


 これに関しては以下の記事にて詳しく語られていました。



 HON.jp News Blog 「出版月報の数字は「出版」の統計ではなく、「取次ルート」の統計である」

(https://hon.jp/news/1.0/0/22618)より


 ――以下抜粋。


 出版月報の表2には「注釈事項」として、次のようなことが明記されている。


『この統計は、取次ルート(弘済会・即売卸売業者を含む)を経由した出版物を対象にその流通動態を推計したもので、日本の全出版物を対象にしたものではない。したがって、直販ルート(一部の雑誌を除く)の出版物は含まない。』


 たとえば、日経BP社「日経ビジネス」はABC部数で約18万部のビジネス誌だが、その多くが定期購読であり、取次ルートは経由していない。出版社のディスカヴァー・トゥエンティワンは、書店と直接取引を行っていることで有名だ。「トランスビュー方式」というやり方もある。この辺りの事例は『まっ直ぐに本を売る』(石橋毅史/苦楽堂・2016年)が詳しい。


 もっと言えば、アマゾンと直接取引をする出版社も急増しており、新文化通信社による2019年2月1日の報道によると、直接取引している出版社は2942社にも及ぶという。しかし、出版月報の注釈事項の続きにはいまだに、以下のようなことが書かれている。


『95年7月に公正取引委員会が発表した「事業者アンケート調査」による流通経路別の販売比率によると、取次ルート(弘済会・即売卸売業者を含む)は書籍の7割近く、雑誌の9割強を占めている。』


 つまり、出版月報では1995年7月の調査結果が、2019年になっても参照され続けているのだ。アマゾンが日本語版サイトをオープンしたのは、2000年11月。その後、「書籍の7割近く、雑誌の9割強」という数字がどのように変化したのか、出版科学研究所はアップデートを図っていないことになる。


 ――以上。



 簡単に言えば、記事やニュース等でよく目にする「出版業界は斜陽、売り上げは〇%減!」みたいなデータの多くは、という事です。


 そうは言っても売り上げが減少しているのは確かなので、あくまで実態は”数字よりも緩やかな衰退”、といった感じでしょうか。

 決して楽観視して良い訳ではありません。


 では、何故そのような統計を出しているかと言うと、日本の出版流通の独特な文化に起因します。



 IT media ビジネスオンライン「なぜ電子出版は軽視されるのか」

(https://www.itmedia.co.jp/business/articles/1701/18/news056_2.html)より


 ――以下抜粋。


 出版業界は、主に出版社、書店、そして取次によって成り立っている。出版社が本を出版すると、大部分を取次に卸す。書店は取次を介して本を入手し、店頭に並べる。書店は多くの本を「委託販売」しており、一定期間経過して売れなかった本を返品することができる。出版社は、取次に本を入れた段階で、仕切価格で売り上げが立つ。しかし返本があった場合、取次に返金をする必要が生じ、その分の金額を売上額から控除することになる。

(中略)

 こうした事態を避けるため、出版社は書店での実売数を上げ、返品率を下げたいと考えるのが当然だ。実売数の推移は、書籍の増刷や、雑誌連載作品を打ち切るかどうかの指標にもなっている。

 その結果、「書店で売れる本」が重視され、在庫にならない電子書籍の売れ行きは重視しなくなる。書籍(特に漫画)の発行点数は年々増加する一方、書店の売り場面積は限られているため、新刊が出れば売れ行きが鈍い既刊は埋もれ、しまいには返本されてしまう。このため現在の出版界は新作ソーシャルゲームと同様の「初動勝負」になりつつあり、「書店での初動が鈍ければ連載打ち切り」といったケースもある。


 ――以上。



 つまり、アマゾンによって構造改革が行われた小売業界において、、という事です。


 これは2017年の記事なので「現在でも全く同じ」とはまでは言いませんが、「変化した」とも言えないでしょう。


 今後、電子書籍に関して力を入れていく事は勿論あるでしょうが、だからと言って書籍が重要であるという姿勢に改革が起こるかと問われると、「それは難しい」と答えざるを得ません。


 上述の様相を呈している出版業界ですが、これら事実を出版社は当然把握しています。


 これに対して、どのような対策、解決策を我々ユーザーに提案するのか。

「あたらしい出版のカタチ」と銘打って動き出したLINEノベルにも注目が集まります。

 何だかんだ、LINEと三木一馬氏が動いた、というだけで期待はあるのです。その分、ハードルも上がりますが。


 さて。

 ここまで小説に関する期待や問題点を見てきましたが、同じ出版業界にいながら「関係ない」と安全圏にいるジャンルが実は存在しています。


 ――学術書です。


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