第17話 将来的に残るのは「学術書」のみ?
ここで「学術書」について、あらかじめ定義しておきたいと思います。
実用書やビジネス書とは違うからです。
学術書とは、
『日本学術振興会の科学研究費補助金(科研費)研究成果公開促進費』
『大学の出版助成金』
『公益財団などの出版助成金』
の対象となり得る書籍であると、ここでは定義します。
つまり、”お金を貰って出版費用に充てる事ができる書籍”ですね。
その基準に関しては日本学術振興会のHPにて述べられていますが、要は『学術の振興と普及に資する』ものです。
学術書は専門性が高く、日々アップデートされています。
むしろ、最先端を行っていなければ困るのです。
そして、学術書に求められている役割は「知識の公共化・普及」にあります。
身近な例でいうならば、教科書や参考書、辞書がこれに当たります。
受験をする際の過去問など、「最新版が欲しい」と思うのも当然ではないかと。
つまり、常に更新していく必要があり、それが国益のため、ひいては人類の発展のために必要。
それが「学術書」なんですね。
ちなみに、学術書の執筆を担っているのはご年配の方が多くを占めていますので、未だ紙媒体の物が多いですが、今後世代交代をしていく事で電子化もされていくでしょう。
こういった理由・背景を持つ「学術書」は出版業界にいながら安全圏にいると言えます。
売り上げではなく、「知識の公共化・普及」が重要ですので。
また、執筆者は専門家であり、別に小説家のように印税で生きていきたいと思っている訳でもありません。
業界・分野における信頼の獲得であったり、単純に自身の業績となったり。
学術書を出版する事で印税以外のメリットはたくさんあります。
そのため、出版業界が衰退し自社の収益のみで経営する事が困難となった時、最終的にはこの助成金が充てられる可能性もあります。
しかし、その場合は出版における意味合いは大きく変化します。
マスメディアとしての出版ではなく、文化・学術としての出版です。
例えば、学術的に研究されている純文学や詩などですね。
他にも、日本の文化として認められる漫画。生活を向上させる実用書や、専門性の高いビジネス書もこれに含まれる可能性があります。
そして、これらを出版させるための助成金を貰うには、勿論「審査」というステップを踏まなければなりません。
すなわち、より優れた物のみが選別され、他は淘汰されていく、と。
こうなると、”娯楽”としての側面が強い大衆小説は刊行点数が激減するでしょう。
ただ、このような段階に至る前には出版社の廃統合が進み、国内での出版を一社で独占するような環境が訪れると考えられます。
しかし、その後はより売れるメディアミックスの方が重視され、結局「小説」は縮小されていく未来が待っているのではないでしょうか。
アニメ、ドラマ、映画等のノベライズ本がせいぜいかと。
そうなると、より一層「書籍化」はブランドとなりますね。
確かに、粗製・乱造されている現状よりはマシかもしれません。
ある意味、そういった形で生き残る道が可能性としては高いと考えています。
WEB小説が興隆している現在、そのあと押しをするLINEノベルの登場によって、この推測はより現実味を増してきました。
本エッセイの第5話、「令和小説大賞から見る可能性」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054889529210/episodes/1177354054889534041)でも触れましたが、WEB小説を書籍として刊行するのではなく、アニメやゲーム、ドラマ、映画へとメディアミックスし、そちらがウケたら書籍化という流れになってきているのではないでしょうか。
LINEノベルとレーベル編集部が掲げている「作品IPの創出」とは、そういう事ではないか。
出版社は「書籍を売るマスメディア」としての立ち位置から、「創出されたIPを管理する会社」へとシフトチェンジするのではないか。
LINEノベルの発表からは、そういった可能性を読み取る事もできます。
しかし、「小説」としての売り上げが減少する事に変わりはありません。
これでは、メディアミックス化し金銭を獲得するための「企画書」です。
また、近年は”若者の活字離れ”もささやかれています。
本当に、「小説」は求められていないのでしょうか?
私は、これら「小説」に対する厳しい現状が、「小説」が人々に求めるハードルにあるのではないかと推測しています。
そのハードルとは、『教養』です。
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