第18話 小説が読者に求めるハードル『教養』

「小説」は読者に『教養』を求めます。


 例えば、お笑いのネタでも、バラエティ番組の笑えた会話でも、何か文章化してみると思ったよりも笑えない事に気づけると思います。


 同じ内容なのに、”笑う”というハードルが上がっているのです。


 これは、文章から内容を理解するというステップを確実に踏まなければいけなくなったためです。


 他にも、空知英秋氏の漫画「銀魂」ではよくある”時事ネタ”を例に挙げられます。


 刊行当時の世情を反映したギャグは勿論、過去の有名作品のパロディなども、


 人間は五感を用いて多くの情報を得ています。

 よく会話を聞いていなくても、他人の笑い声に釣られて笑ってしまう事があります。


 つまり、雰囲気で笑えてしまう。


 映画の字幕を全く知らない外国語にしても、何となくは展開を追えるのと似ていますね。


 しかし、文章になるとそうもいきません。


 ギャグはどこなのか。何に対するツッコミなのか。

 自分で把握しなければなりません。


 また、文章には叙述トリックといった、文章だからこそできる仕込みもあります。

 けれども、これも文章の流れを理解するだけの読解力が必要となるでしょう。


 伏線なんかがあれば、どこに張られていたのか、どうやって回収したのか、その構成を把握しなければなりません。



 小説は内容を理解するために、楽しむために、使のです。

 体力を使うとも言います。



 そのため、人によっては”小難しい”と感じ苦手意識を持つに至ります。


 つまり、小説を読むためには『教養』を持っていなければならないと考えられ、母国語と同じ言語で書かれている、というだけでは読めないのです。



 その反動として、小説—―大衆小説が出来ました。


 この”読みやすい”とは、一文を短くする、難しい表現を使わない、かみ砕いて説明する、憧れや夢を抱きやすい設定等です。


 読みやすいから、より多くの人が内容を汲み取りやすく、話題にもなりやすい。

 売り上げという数字を残せる。

 出版社は”売れる作品”に力を入れていく。


 そして、より多くの人が手軽に読めるWEB小説が台頭します。


 ――恐らく、ここで勘違いが起きました。


 読みやすい小説が、小説と受け取られたのです。

 これなら自分にも書けると思う人が続出した訳ですね。


 こうして、質の低いWEB小説が乱造されました。


 そして、それを読むのは使読者です。


 仕事に疲れた、現実が上手くいかない、活字が苦手。

 理由は様々でしょう。


 中身が薄くても、質が低くても、暇つぶしの気分転換。

 別にお金を払うわけじゃなし、その時の気分が良くなればそれで良いと考える。


 結果、ランキング上位に「なぜこんなものが?」と思うような出来の作品がランクインする。

 そう感じるのに、ランクインすると更に読者が増え、評価が集まる事になる。


 すると、出版社は「これが今の流行り」と認識し、その作品が売れるように広告を打つ。


 結果—―売れない。


 勿論、WEB小説発の作品が全てそうだ、などという暴論を吐くつもりは毛頭ありません。

 

 ただ、「WEBの読者=購買層」ではありません。

 上記の流れに反感を持つのは本が好きな人であり、本を買うのも本が好きな人でしょう。

「なろう系」が叩かれる理由もこの辺りにあると私は考えています。


 こうして、刊行点数に比べて売り上げが落ち込んでいく業界の出来上がりです。


 比較的マシなのはSFジャンルでしょうか。

 SFはハードな世界観を構築している作品が多いため、読むのには正に頭を使います。

 好きな人は好きですし、苦手な人はとことん苦手でしょう。


 その分コアなファンも多く、刊行スピードが遅かろうと”中身を求める読者”が大勢います。

「ちゃんと待つから、質の良い作品を書いて欲しい」というニーズが高い割合を占めている訳ですね。


 しかし、ライトノベルはそうもいきません。


 日々、大量の作品が出回る中、刊行スピードが遅いとたちまちます。

 ライトノベルはスピーディに作品を市場へ提供する必要があるのです。


 よって、中身に粗が出てきます。



 これらの事から、今後「小説」は二つの道を辿る可能性があると推測できます。


 一つは、『”頭を使いたくない読者”をメインターゲットとした道』。



 もう一つは『”頭を使う読者”をメインターゲットとした道』です。


 前者はWEB小説を読み、本は買わず、メディアミックス化された作品に興味を持つと予想できます。


 後者はWEB小説に限らず様々な本を自主的に発掘し、本も買いますし、メディアミックスされた作品にも興味を持つでしょう。


 一見すると後者の方が良いと感じますが、人口に占める割合が大きいのは圧倒的に前者です。


 すなわち、”売上”という数字に直結しやすいのが前者、という事になります。


 ベストな未来は本エッセイの第9話「"小説に興味のない人"を引き込む」(https://kakuyomu.jp/works/1177354054889529210/episodes/1177354054889552772)で述べたように、前者を含めた”小説に興味の無い人”の意識を後者へと変換させる事だと考えています。



 果たして、出版社はどのようなの道を選択し、どのような未来を目指す事になるのでしょうか。


 作家に出来る事はそう多くありません。


「面白い」作品を作るだけです。


 今後の出版業界がいかなる道を歩もうとも、私は小説が生き残っている事を切に願います。

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