エピローグ
その後のことは伝聞になる。私もまた、養成学校には籍を戻さなかったからだ。
これから連別府と愛近は正式な三局戦況の教育を学ぶ。私はきっとその邪魔になってしまうことを考えれば、もうそばにいないほうが良い。
入寮の手続き後にそのことが連別府にバレ、それなら養成学校にいても意味が無いと荒れていると愛近からの連絡を受けて通話で説得することになった。
『どうしてですか星南さん! 養成学校でも星南さんに教えてもらえると思ったのに!』
「聞きなさい、連別府。これから先のあなたに私はもう必要ないのよ」
『必要ないとかあるとかじゃなくって、あたしは星南さんに見ててほしいんですよ!』
自分にそれほどの価値を感じてくれることは素直に嬉しくて、後ろ髪が引かれる想いが湧く。湧くが、それに従うほど子供ではない。正確には、子供ではなくなった。
「連別府、怒ってる?」
『怒ってますよ!』
「私は感謝してる。あなたにはなんのことかわからないだろうけどね」
『……わかりません』
「私は連別府が理想にするような立派な人間じゃないってことよ。『三局戦況の選手になれなきゃ生きてる意味が無い』って小さな価値観しか持たなくて、その檻の中で自分を責めて世の中を呪うだけのロクでなしだったの。それをあなたが変えたんだわ。選手である以上の〝存在意義〟を貰ったの。感謝しないワケないでしょう」
『そんなこと言ったって、一緒にいてくれないじゃないですか』
「偶川もあなたのそばを離れたけれど、それで絆は消えたのかしら」
『それは……』
一気にトーンダウンした。きちんと話を聞くあたり怒っていても素直さを手放さないあたりは可愛らしい。
「連別府、『見ていてほしい』って言ったわね? だったら三局戦況を続けなさい。私が目を離せないくらい魅力的な選手になって、私を釘付けにしするといいわ」
『そうしたら……試合を見てくれますか? ……いつかあたしと、戦ってくれますか?』
意外な申し出を聞いて驚く。
「私と……戦う?」
『そうしないと星南さんはちゃんとあたしのこと見てくれない。あたしが勝ったら、なんでも言うこと聞いてもらいます』
いつだったか『抱いて』と言われたことを思い出し、「もしアレだったらどうしよう」と頭を抱える。真剣に悩んで、真剣に悩んでいることが馬鹿らしいことに気が付いた。
「いいわよ。私に勝てたら、なんだって聞いてあげる」
『じゃあ、今すぐ特訓してきます! 星南さん、それまで……サヨナラ』
最後には笑って通話を終えた。
自動運転で走らせていた車を路肩へ止め、外に出る。高架道路から見下ろす風景は憶えのない町並み。背伸びをして息を吐く。
「ん~……一旦実家に帰るのもいいわね。ロンデやアムリラを誘ったら喜ぶかしら」
三局戦況の選手にならなければ。連別府を正しく選手として育てる指導者にならなければ。そういう風に燃やしていた意欲が自分の中に一つもない。いよいよ本当に無職になったというのに何の不安も焦りも感じなかった。
また何か必要なときが来ればきっと心は昂ってくれるとわかるから、誰にも二度と私を「燃え尽き」なんて呼ばせない。
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