大空星南の60%

 そもそも「軍事利用」という言葉を当てはめるのが不自然になる、初めから戦争の技術であるイデアエフェクトが兵器に転用されたことに意外性は無い。

「でもそうしない為に三局戦況が生まれたと教わったのに、おかしな話ね」

 果ての見えない荒野に立って嘆息する。今からここで、最新兵器が自分を殺しに来るらしい。人生何が起こるかわからない。無職で時間があるので軽い気持ちで応じたらこうなった。

 独り言のつもりでいたのに、期待していなかった返答があった。

『以前は明確に規制されていたのですが、昨年から三局戦況連盟からの協力を得られたのですよ。この世のどこかで「事情が変わった」ということなのでしょう』

 腰のベルトに取り付けた小さな機械から声がした。今回「音声でガイドする」と言われて借りたもので、てっきり開始の合図を報せてくれる程度の物と思っていた。

「機械音声……通信じゃなくてAI? 軍の支給品ならもしかして戦況分析とかもしてくれるのかしら? それは楽しみが増えたわ」

『お言葉ながら仮想敵殿、イデアエフェクトによる戦闘は学習内容に含まれておりません。加えてこれより始まるのは新兵器の実験です。実際にどのような運用をされるのか、その効果については未知数です。敵機の位置を報告する、程度であれば可能です』

「それだけでもありがたいわね。なにしろここは広いもの。……っていうかさ、今更聞くことじゃないんだけど、本気なの?」

 軍事実験に参加してほしい、と要求する連絡を受けた時は冗談だと思った。しかし通常の旅券手続きを伴わない渡航手段でこうして国内ではありえない平原に直送されている。どこの国かは知らないが、季節すら違うのか熱いので上着は脱いだ。

「未成質量を貯蔵する技術を確立したって言うから、それは三局戦況にも関わってくることだし確認させてもらいたいと思って返事しただけなんだけどな」

 もう一度長く息を吐くと、小さく轟く音に気付いた。

 見上げれば遥か頭上を飛行機が飛んでいる。距離は掴めないが、薄く白んで霞んでいるところを見るとかなり高いようだ。それでも形がハッキリわかるほどなのでそれだけ途方もなく巨大なのかもしれない。

『仮想敵殿にとっては標的となる、新兵器を満載した輸送機です。あれから投下されここへ落ちてきます。それ以後は砲火を持って開始の合図となります』

「あれを撃ち落としたらまずいのよね?」

『そんなことが可能なのですか。いえ、それでは実験が準備段階での失敗となり、上層部が白目を剥いて倒れます』

「あなた本当に人間じゃないのね。現場の人間なら大喜びで勧めるはずだわ。軍の体質なんて知らないけど、職場はどこでもそんなものでしょ」

 AIと無駄話をしている間に輸送機を囲んで無数の点が浮かんだ。近づくほどに外へ広がり、周囲へ落ちると砂埃を巻き上げた。長い砲身だけが突き出ているのが離れていても見える。

「砲火を持って開始の合図、だったわね。ならそろそろ用意させてもらうわよ」

 たった一つ、それがわかれば充分な信実。戦いが始まる。

 自然とかかとを合わせようとして、愛用品を譲ったことを思い出しポケットから今回の為に支給された標準型の起動弁を鳴らす。

「機械だろうとこの道じゃ後輩は後輩。少し厳しくいくわよ」

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