優しいひだまりと祖父の庭

祖父が昔、大切にしていた庭があった。


ちょうど縁側から見えるその庭はこじんまりとしていたけれどよく手入れが行き届いていた。


覚えているのは梅雨の時期の紫陽花。

縁側から見る紫陽花は青色と青紫色で、とても綺麗だった。

その他にも白い大きな花を咲かせる木があり、縁側から砂利で整備された道の脇には小さな草木が可愛く生い茂る。

まだ幼かった私は柔らかな雨の降る中、縁側から見えるこのこじんまりした庭の風景に見入っていた。

花たちが収められた庭は、1枚の絵画の様だった。


そしてこの縁側にはいつも祖父がいた。

私はそんな祖父の近くで庭を見ていた。

何を話していたのかは今となっては覚えていない。

梅雨が終わると若葉の季節。

瑞々しく木々が生い茂り、梅雨の季節とは違い、心地よい陽射しが包み込む。

気がつけば、私は縁側で寝ていた。

葉が擦れる音と木々からもれた陽射しが心地よかったのを覚えている。


この庭が私の密かな自慢だった。

秘密の場所のように好きだった。

縁側から見る景色が好きだった。


けど、庭は今はない。

正確にはあの頃の面影はない。

今は、父が乱雑に撒いた強力な除草剤のせいで、ほとんどの木々や花々は枯れてしまった。

見るも無惨な荒れ果てた場所になってしまった。

ただこれは、父には手入れをする余裕なんてないため、仕方がないことだ。


庭がこうなるまで少し時間がかかった。

じわじわと木々は減っていった。

最初になくなったのは紫陽花だった。


祖父が小学5年生の時に亡くなった時から

除草剤だらけの庭になるまでの間、

私は縁側に行かず、そして庭を見ることは

ほとんどなかった。


祖父の死後、5年ほどたった頃の冬の時期、

その日は珍しく、私たちの地域にめったに

降らない雪が積もった。


そしてそこには、真っ赤な花をつけた

牡丹の花が咲いていた。

一面、雪にまみれた庭は、除草剤で荒れた部分を隠し、牡丹の鮮やかな色を強調した。

しんなりとした雪の中、白さに埋もれず主張するその花の強さはその景色を一瞬で絵にしてしまった。


祖父と過ごしていたあの頃は、牡丹など気にもとめなかった。

それなのに最後に残っていたんだと思った。

私は頑張ってくれたことに感謝した。


今でも、父は除草剤を撒いているようだ。

もうしばらくずっと帰れていないので、庭がどうなっているかは分からない。


だけど、私には祖父とのこのあたたかい記憶が残っているから、あの景色を忘れずにすむ。

それでも文字に残すことで、より鮮明に色鮮やかに思い出を残したいと思った。


それに今くらいの寒い時期だった。

あの牡丹の花を見たのは。

だから、余計にかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

語り人と箱庭の世界 夢見ざくろ @suzu10myworld

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ