時計が恋したあの瞬間
時を刻む時計
大きな大きな時計は時を刻み
秒針は進んでいく
少年はその部屋の時計の近くのソファーに座って本を読むのが大好きだった
時折、窓のカーテンを揺らし日差しが差し込むとそれは丁度よい温かさで。
その空間のなかで時計の秒針の音を聞きながら本を読むのがとても好きだった。
それから彼は少年から青年になった。
そして自分より10も若い女性と結婚した。
彼女とはよく趣味があった。
幸せな彼はやがて子どもが生まれ、孫ができ、おじいちゃんになった。
彼の人生の思い出の中、もしくは傍に時計はあった。
時計は常に彼を見守り、彼もまた時計を見守り手入れした。
彼は息子に話したように孫たちにもある話をする。
「この時計にはご先祖さまが宿っているんだ。秒針の音はご先祖さまが安からに眠っている証拠なんだよ。いずれ私もあそこの一部となるだろうね。」
だから息子よ、孫達よ、大事にしてくれ。
そして彼は安からに息を引き取った。
まだ若かった。
次に彼が目を覚ました時、目の前に見えたのは愛する妻だった。
彼女もまた彼と時計を愛し、彼が亡くなった後も時計を手入れしていたのだ。
慈しむように時計を手入れする彼女は美しかった。
ーあぁ、君は歳をとっても出会った頃のように美しいー
彼女はひと通り手入れを終えると満足そうに微笑んで後ろを振り返った。
ソファーに読みかけの本を開いたまま少年が寝ている。
それを見つけた彼女は、懐かしそうに微笑んだ。
窓のカーテンは揺れ、日差しが差し込む。
「あなたの言った通りね、あなたが亡くなってもあなたはこの空間の、そしてこの時計の中で生きているのね。」
ーあぁ、そうだね。これで僕は安心して時を刻められるよ。愛しい妻よ。僕はしばらく眠るよ。次に君に出会えるのを楽しみにしているよ。愛しい妻よ、僕は恋に落ちてるんだ。出会った時からずっとー
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